ブタブタ

ブリューゲルの動く絵のブタブタのレビュー・感想・評価

ブリューゲルの動く絵(2011年製作の映画)
4.5
『ストーカー』の原作で知られるストガツスキー兄弟の小説『神様はつらい』を映画化した『神々のたそがれ』とこの『ブリューゲルの動く絵』はよく似ていると思いました。
飽く迄も個人的な感想ですが全く同じ世界同じテーマを描いていると。
しかし印象は全く違っていて『神々のたそがれ』が圧倒的な混沌なら『ブリューゲルの動く絵』は圧倒的な秩序と言いますか。
『神々のたそがれ』はモノクロで薄汚く汚泥・糞尿にまみれた世界で『ブリューゲルの動く絵』はカラーしかも非常に鮮やかで登場人物達の衣装もまさに「衣装」といった感じで汚れがなく人工的で美しく清潔な世界。
思ったのはまるでドラクエの世界の様だと。
ドラクエも中世ヨーロッパの世界をモデルにしていますがブリューゲルの~のヴァーチャル的世界→人物にはっきりと役目が与えられていて同じ動きしかしない様に見える様は丁度ドラクエの「村人」の様だと。
中世の世界をCGや最新技術で再現すると一周回って逆にドラクエの世界に見えてしまうのだと思いました。
冒頭、巨大な岩山の上に立つ風車小屋(粉引き所)を神の視点として人々の様々な様子が描かれるのですが、『神々のたそがれ』が遠く離れた別の惑星で主人公ドン・ルマータの額の小型カメラから送られる映像を我々が見ている―と言う設定に対し、ブリューゲルの~は画家ブリューゲルが描いた絵『十字架を担うキリスト』を再現した世界で目の前で展開してるのは現実ではなくブリューゲルを創造神とする非現実の世界であり、どんな残酷で不条理な事が起きてもただ見ているだけ、記録するなり絵に描くしかない、ドン・ルマータもブリューゲルも傍観者でしかない。
三次元の人物(神)が二次元の人々(人間)を見ている、それは丁度自分達が映画を見ているのと同じ構図でブリューゲルの~でもDVDを一時停止するのと同じ様にブリューゲルが絵を描く為に人物の動き(時間)を止める事が出来たり、やはりこれは現実ではなく飽く迄仮想空間なのだと思いました。
時代背景は宗教改革が行われているスペイン支配下のオランダで、突然現れる赤い制服の集団=スペイン傭兵によって若い農夫が何の理由もなく(異端者狩りと言う事ですが)車曳きの刑で処刑されてしまう。
神々の~でもゾンビの様にワラワラ現れる「灰色隊」による虐殺が行われ、この中世暗黒時代の恐怖と言う物が描かれていましたが、『DUNE』に登場する皇帝親衛隊サルダウカーと言う狂信集団もこの中世の異端者狩りの兵隊をモデルにしているのだなと思いました。
キリストの使徒の内、はっきり登場するのはユダとシモンの2人だけですが、余談ですがキリストの磔刑で描かれるキリストと一緒に磔刑にされる2人の人物については何の記録もなく名前も分からないそうですね。
キリストを槍で突き刺したロンギヌスは後、聖ロンギヌスに、
キリストの代わりに釈放されたこそ泥のバラバまで歴史に名を残して(?)いるのにあの2人については完全に無視されているのが不思議に思いました。
キリストは反政府主義者、テロリストの汚名を着せられ処刑されたとの事で、その印象をつけるべく同じくあの2人はテロリストなのではないかと言う事なのですが。
仮にあの2人がテロリストの場合、何故キリストと一緒に処刑されるに至ったのかそれ迄の経緯、実際ではなく飽く迄創作としてのストーリーなど有ったら面白いと思いますし、キリストと一緒に磔刑にされた事で後々その思想(宗教、テロ集団)の一派にとっては聖人として崇められる可能性があったのにと思うと何の記録も残ってないとは非常に勿体ないなと思いました。
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