空海花

ツリー・オブ・ライフの空海花のレビュー・感想・評価

ツリー・オブ・ライフ(2011年製作の映画)
4.5
巨匠テレンス・マリックの有名な難解作品。彼の自伝的作品でもある。

ショーン・ペン演じるジャック・オブライエンは実業家として成功していた。
ビル街の景色に佇み、喪失感を抱いた顔をして、彼は少年時代を回想する。

1950年代半ばの中央テキサスの田舎町
厳格な父と慈しみ深い母と長男のジャック。
2人の弟たちも生まれ3人兄弟になる。
弟が生まれて、母の愛を独り占めにできない苛立ちも見せるが、弟も赤子から少年に成長する。
一見幸せで理想的な家庭だ。

「生き方にはふたつある。世俗に生きるか、神に委ねるか」
母の言葉からこの一家の叙事詩は始まる。
そして弟が若くして亡くなる便りもまた。
グリーンを貴重とした美しい光景。
遠方にはブルーが射す。
単純な色彩は1つとしてない。
撮影監督エマニュエル・ルベツキ。
神に問う言葉、宗教的な文言が至る所に表れる。
神に忠実であろうとする母が、その言葉を紡ぐ。
恵まれない人たちを見つめる少年。
施しを与える母。
幼いジャックは罪を犯すことに恐怖している。
「母さん、僕を善人にして」

タイトル“Tree of Life 生命の樹”
からして、身構えてしまうものだ。
旧約聖書では蛇にそそのかされてアダムとイブが食べたのが知恵の樹の実。
生命の樹の実と両方食べると永遠の生命を得て、神に近づくことをおそれ追放される。
でも“Tree of Life”と聞いて思い浮かべるのはその象徴図表。
ユダヤ教の神秘主義思想のカバラでは様々な解釈がなされていて、魔術的なイメージもある。

これを端的に、間違いを怖れずにとことわって
精神的なステージとか段階みたいなもの、と言い表してみたい。
堕落したり罪を犯したら下へ行くし
乗り越えれば上へ進む。
でもその道は登りも下りもジグザグ道。
慈愛に寄ったり、厳しさに寄ったり、均衡を担ったりしながら。
下へ落ち過ぎると上がれなくなる。
堕天使のように。
子供時代の怖れはそれなのかもしれないと。

父(ブラッド・ピット)は社会的な成功と富を求めており、
食卓はいつも緊張感に包まれる。
初めは厳格な父という印象だが
次第に傍若無人に見えてくる。
母(ジェシカ・チャスティン)は自然を愛し心優しいが、夫に苛立ちつつも結局は逆らえない。
ジャックは父に反発するようになり、
母には蔑むような態度を見せるようになる。
憎い父の中にある“力”に傾倒していくのだ。
力が威厳となるか傍若となるか
優しさが愛情深さとなるか弱さとなるか。

「モルダウ」が流れるなか
缶蹴りをする兄弟
活き活きとした光の中で

「父さんはなぜ生まれたの
 いなくなればいい」

弟にも辛くあたるようになり
ジャックの闇はどんどん深くなり
飲み込まれそうになる。


以下内容に触れた感想⚠️
そして長いです😅
読んでもよくわからない気もするけれど、気になる方はこの辺りで。。
ちなみに観る時は、あらすじくらいは読んでおいた方がいいと思います。
置いてかれます(笑)


一方で宇宙の始まりのようなシーンが突然現れる。
これはクラヴィラックスという光と音を同時に表現する楽器で制作されたもの。
カラー・オルガンとも呼ばれるらしい。
惑星、爆発、海、そして生命の始まり。
この映像はこれだけで観ても1つの作品として完成できるほど美しい
特撮監修は「2001年宇宙の旅」ダグラス・トランブル。
恐竜の特撮に現れる物語も重要なシークエンス。
この世の輝く美しさを見せつける。

ある出来事により、父にも変化が訪れる。
音楽の道を諦め、事業の成功に執心していた父。
弟の音楽の才能を喜び
自身は世俗に生きる。
「世俗に生きる人は、常に不安を見出す」
ブラッド・ピットの演技が素晴らしい。
さすがプロデュースしているだけあり、
このストーリーを理解しているように思える。
ジェシカ・チャスティンの母の愛情深さにも女神性があるが、
大きくは父と子の物語だ。
彼らが抱える喪失、衝動、救い。
ショーン・ペンは、完成した映画を観て、意味がわからなくて混乱したと言ったそうだが、彼の出番はそれほどはない。哀愁たっぷりのアンニュイな表情。神秘を携える。
子役も非の打ち所がない。

父も試練の小径を通ったのだろう。
父の述懐が彼を溶かしていく。
それとも同時だったのだろうか。
子供が産まれた時の喜び
子は命の光、希望。

庭にある大きな木
これも生命の樹の象徴。
家族のたった数十年ほどの歴史と天地創造を結びつけるという壮大な物語。
1つの家族の小さな営みもまた小宇宙。
生命が誕生して以来の、普遍の摂理。
生命の樹は、神や霊界、森羅万象、宇宙、人間などすべての謎を解き明かすことができると言われている。

干潟のラストシーン
水と時間のうねりが全て融け合う
救済と祝福、赦し、愛が満ちる
グリーンが彼ら人のスペースなら
ブルーは天の平和の安らぎ
ブループリントを生きてきた彼の証
アレサ・フランクリンが歌った
“神のもとで老いのない自由な楽園”が思い出された。
「あなたに愛がなければ
 人生は瞬く間に過ぎ去る」

聡明なテレンス・マリックには
哲学的な救済が必要だったのかもしれない。
大地の鳴動、どこまでも続く海、空を超えて果てしない宇宙にまで思考を広げて。
人はどこから来てどこへ行くのか。
難しいし、いくら書き連ねても、
何一つ理解できていないと
恥を晒してる気分にもさせられる。
確かに不親切ではあるのだが
イマジネーションが爆発する感動体験と
普遍の理と繋がった時の恍惚。
結論はまだ出ていないが、
(マリック先生に教えてほしい…)
これを傑作とする理由としたい。


2021レビュー#140
2021鑑賞No.272

ネタバレコメント欄には
誤りだらけで怒られそうなので削った
生命の樹の図表の話をもう少し。
素人なので間違い、わかりにくいのはお許しを😢
空海花

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