しん

ツリー・オブ・ライフのしんのレビュー・感想・評価

ツリー・オブ・ライフ(2011年製作の映画)
5.0
久々に観ましたが、改めて大傑作でした。
初めに、この作品全く優しくありません。テレンス・マリック監督自身の内的作品であり、セラピーのような役割を果たしているとも考えます。以下自分の解釈です。

「二つの生き方がある。」
始まりのナレーションから分かる通りこれは慈愛か世俗かと、母と父の存在、キリスト教的価値観を通し生き方の選択を迫られる物語です。
そしてこの映画1番の謎は、アメリカの片田舎に住む家族の話と並行して宇宙の創生、そして生命の誕生が美しい映像で綴らる点です。全く意味がわかりません。

生命の樹ないしは宇宙の誕生、生命の根源を科学的に描くというのはキリスト教の聖書の教えに反しています。そもそも聖書は「はじめに神は天と地を創造された」という言葉から始まっていますからね。ヨブ記の引用「私が大地を据えた時、おまえはどこにいたのか」からも分かる通りこれらの描写は信仰への試練、神への懐疑を表しているはずです。
母のナレーション、慈愛の説明の途中(母は慈愛の象徴です)息子の死を知らせる手紙が来ます。肉食恐竜が怪我をした恐竜を見逃した後、巨大な隕石が映し出されます。慈愛を見せた後、意図的に理不尽な不幸が訪れるということです。

主人公のジャック(マリック自身)は父から度を超えた抑圧を受けています。
彼にも訪れる様々な不幸から幼少期の彼は非行に走ったり、兄弟に父のように威圧的に振る舞ってしまったり、生き方に揺らいでいます。それでもベットサイドで祈りを捧げているシーンや「僕は父さんに1番似ている」というようなセリフからもそのような揺らぎは感じました。

幼少期の断片的な記憶や、弟の自殺を通して抱いた父への恨みは凄まじかったのでしょう。
それでも彼は、父の影を捨てそして父を許すことにより慈愛を選びます。
ラストシーン、現実を超えた場所で全員が抱き合って終わるというのは、マリックの願望のようですよね。この作品を撮る事によって彼自身が救われたかったのだと思います。

マリックの宗教観について、彼はインタビュー等にも答えないので、分からない事だらけです。自然をかなり誇張して捉えていたり、光を強調することから(トーマス・ウィルフレッドのクラヴィラックスの光等)少し考え辛いですがスピノザ的な価値観もあるのではないでしょうか。
汎神論、この世界の全ては神が変容した姿であるという考え方です。そうすると宇宙の描写を挟む事により納得できるのですが、その辺りは謎ですね。

映像や音楽の美しさに関して沢山語りたいことがありますが長くなるのでやめます。1つ言えるのは自分が観た映画の中で1番美しかったということです。
しん

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