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おとうとのleylaのレビュー・感想・評価

おとうと(1960年製作の映画)
4.2
カメラマンの宮川一夫さんを追いかけての鑑賞。素晴らしすぎるカメラワークには満点以外つけようがありません。

大正時代、兄弟愛を描いた幸田文の自伝的小説を市川崑監督が映画化。リメイクも何度かされています。

仕事ばかりの作家の父…森雅之
厳格なクリスチャンでリウマチ持ちの継母…田中絹代
動けない継母に変わり家事をする姉…岸惠子
放蕩息子で家族を困らせる17歳の弟…川口浩

夫婦仲も冷め、リウマチで体が思うままにならない継母は、その腹いせなのか嫌味ばかり言っている。

問題を起こして周囲を困らせる弟と、そのことで小言を言う継母との板挟みとなる姉は、弟の面倒や家事で忙しく嫁にもいけない。

母の愛情に飢えた弟と姉は驚くぐらい仲睦まじい。そんなある日、弟は結核で病に伏してしまう…。

今まで弟とろくに話もしなかった母が、病床でいい母を演じる。信仰心を盾に自分を守ろうとする母のエゴを感じるイヤな継母だ。田中絹代あってのこの役。

母に対して気丈に振る舞うラストの姉の描写が、観る者を鮮やかにぶった斬る。市川崑監督のセンスを感じる結末。不気味にも思える演出が、お涙ちょうだいでなくてよかった。

岸恵子演じる姉の美しさと明るさが際立ち、彼女を見つめる作品でもありました。


📌個人的MEMO 宮川一夫さんのカメラワーク

「銀残し」と呼ばれる世界初の手法を使ったことでも有名な作品。技術についてはわからないので受け売りとなるが、監督は「モノクロでもカラーでもない映像で大正時代を表現したかった」と言っており、それに応えるための色彩を、銀残しで実現している。
当時のカラーフィルムは黒を表現するのが難しく、銀残しを行うことで水墨画のような黒の繊細な色調を表現できた。その代わり、色彩の彩度が落ちることになり、その抑えたカラーが大正時代の雰囲気と融和。陰影にも深みが出て影が語っているようだった。

冒頭の雨のシーン、下から見上げる横移動、上からの室内のショット、母の会話中にまとわりつく不吉な陰影、病室の廊下の暗さと夕陽のどぎつい赤、ネオンの描写、屋根越しの提灯…どのシーンも惚れ惚れするショットの連続。

1シーンごとに構図にこだわり、光と影を詳細に計算して照明を使っていることは明白。画面の余白の使い方のセンスも光る。

『羅生門』ほどのインパクトはないが、今作も素晴らしかった。作品を芸術に昇華させる宮川一夫の画づくりに感服。
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