カラン

おとうとのカランのレビュー・感想・評価

おとうと(1960年製作の映画)
5.0
幸田文の自伝的な原作に基づいている。

作家で現実的なことに目を向けない父(森雅之)、クリスチャンで自分のリウマチの痛みに溺れてちくちく文句ばかりの継母(田中絹代)、そして弟に献身する20歳の姉(岸恵子)と粗暴で薄幸の17の弟(川口浩)の一家が、ある時代に(大正をイメージしているが、はっきりとしない)、東京のある町で暮らしている。

原作がどれほどのものか分からないが、かなり裁断された脚本になっているのだろう。最後は失敗しているのではないかとも思う。現実の否認で狂気を予想させるラストシーンなのだけど、あの短いシーンで喪失の否認をするのは、残った3人の内で姉ではないんじゃないかな。盗みを犯した弟は、悪といえば悪だと納得していた姉なのだから。

岸恵子は撮影当時28〜29で、ストーリーと彼女が提示するイメージは少しずれているか。彼女は顔の闇を捉えてくるこの映画ではあまりにくたびれて見えるのだ。田中絹代と森雅之は情報量が桁外れで、熱燗を飲んで口を動かしたり、神経に触る嫌味を永遠に言っていたりして、岸恵子云々というのはすぐに気にならなくなった。

撮影は宮川一夫で、銀残しという技法をこの映画で考案した。大正の時代感を出そうと、カラーフィルムの色の一部を抜くことを市川崑は考えていたようだ。

脚本や演技について語ることはたくさんあるだろう。どちらかと言えば、良いことが大勢をしめるだろう。しかし、尋常ではないのはやはり、宮川一夫のショットと銀残しなのではないだろうか。

☆セットでは、ワイドスクリーンの7割くらいが、廊下の壁やふすまの暗がりになったり、ランプの及ばない闇になることが多々ある。銀残しの締まりのある黒が生み出すハイライトとコントラストは木下恵介の『楢山節考』(1958)なみに異空間を作り出している。

☆ロケを探し回って厳選した、屋外の空間は、ワイドスクリーンに幻想的に広がる。トラン・アン・ユンの『ノルウェイの森』(2010)の唯一の良いところは、長い夢を見せてくれるところだ。この『おとうと』も物語をしくじっているように思えるが、それにもかかわらず、映画の時間は夢の時間である。目の悦びに奉仕する。非常に独特で、1つの技巧として確立されるほどだ。

独特である。このショット、この色調。Blu-rayのリマスターは1960年製作の映画を完全に蘇らせた。ぜひスクリーンでご覧ください。この映画の途方もなく独創的な特性を視聴するには、少なくとも、画面の全周囲が黒い必要があります。
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