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ジーン・ワルツのodyssのレビュー・感想・評価

ジーン・ワルツ(2011年製作の映画)
2.0
【残念な凡作――脚本がひどい】

『パーマメント野ばら』で充実した演技を見せてくれた菅野美穂が主演なのに加え、私の好きな南果歩や風吹ジュンが出ているというので期待して見たのだが――うーん、期待はずれであった。

前半はよかった。色々な伏線や色々なテーマが盛り込まれ、これをどう後半でまとめていくのかという期待がいやが上にも盛り上がっていった。

しかし、である。後半は失望だらけ。なんでこうなるの?という感じであった。

まず、後半の筋書きが2009年の観月ありさ主演映画『BABY BABY BABY!』そっくりであることを指摘しておこう。最後の山場で吉行和子がやった役どころを今回は浅丘ルリ子がやっているけど、まったく同じなのだ。偶然なのか、パクリなのか。

『BABY BABY BABY!』は妊娠と出産をテーマにしたコメディだからあれでよかったのだが、この『ジーン・ワルツ』はあの終わり方ではダメである。なぜなら前半で盛り込まれたテーマがはるかに大きく多様であるからだ。少なくとも観客にはそう見えたからだ。

前半に盛り込まれたテーマとは、産婦人科医を取り巻く状況の厳しさ、そしてそれを改善すべき大学病院の体制の問題である。つまり、『ジェネラル・ルージュの凱旋』と『白い巨塔』を一緒にしたような大きなテーマが盛り込まれた映画である、はずだったのだ。

ところがそうしたテーマはなぜか後半は消えてしまうか、軽い言葉だけの解決で処理されてしまう。

冒頭の、産婦人科での出産死亡事故をめぐる裁判はどこに行ったのか。主演二人は、この事件で逮捕された産婦人科医(大森南朋)を助けるべく決意を固めたはずなのに、裁判の成り行きには後半ではまったく触れられていない。明らかに脚本がデタラメなのである。

菅野は大学の外で、田辺誠一は大学内で事態を改善すると称しているが、そこには大ざっぱな言葉だけしかない。具体的に何をどう変えていくのかはまったく語られていない。大人向けのドラマにするならその辺をいい加減にしてはいけないはずだが。

また、仇役で出てくる教授役の西村雅彦にしても、さっぱり権力を振るっていない。田辺誠一が最後のところで大学側からすれば禁断のクリニックで手術を行った以上、教授側は何らかの制裁措置に出てくるはずだが、どういうわけかその辺は全然触れられておらず、田辺は順調に教授昇任を果たしてしまう。『白い巨塔』を知っている人間からすると、里見が鵜飼から報復人事を受けなかったみたいで「ありえねー」なのである。

で、残るのは、「出産は感動的、赤ん坊はすばらしい」という、きわめて通俗的で分かりやすくイージーなメッセージなのである。だから逆に、最後の出産手術シーンは盛り上がらない。南果歩の旦那(大杉漣)は、あの場面では妻だけでなく他の妊婦にも気を遣うはずではないか。医師二人以外は、浅丘ルリ子をのぞけば人手がいない現場で、大人の男なら自分の妻だけにかかずらうのではなく、「私にできることがあれば手伝います」と申し出るのが普通であろう。また手術も連チャンなのだから、生まれた赤ん坊を抱いて感動するという場面よりはすぐに次の手術に向かうべくあわただしく動いていくところを映すべきなのである。しかし赤ん坊を抱いて感動するシーンを長々とやってしまって、緊迫感は失われてしまった。

そして一番最後のシーンでは、主演・菅野美穂も単なる「赤ん坊を愛でる母」に転落している。産婦人科医として様々な問題に取り組むはずの女はどこかに行ってしまった。そして映画自体も「何、これ?」の凡作に終わってしまったのである。
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