めちゃくちゃ久しぶりのスパイク・リー作品。
「100万人の大行進」に参加するため、ロサンゼルスからワシントンへ向かう長距離バスに乗り合わせた男たち。「黒人の自由」という共通の目的を持ちながら、出自や育った環境、信仰や思想の異なる彼らの口論は途絶えない。
やっぱりスパイク・リーは熱量が凄いなという印象。
黒人解放を訴える黒人たちを描きながら、差別の根底に横たわる内なる問題を明確に炙り出す傑作。
"公民権運動は人々をまとめるための運動だ。お互いに中傷し合うより本当の敵と闘うべきだ"
黒人たちのデモ行進に向かうためバスに乗り合わせた男たちは皆黒人で、ブラックパワーを叫ぶ思想は同じはずなのに、どんなに小さなコミュニティの中にもマイノリティは生まれ、人は些細なアイデンティティの違いを突いて他人を攻撃する。
応援するバスケチーム、信仰、出自、ジェンダー。ほんの小さな違いでしかないのに、それすらも差別の火種になり得る。
途中で乗車し、口論から追い出されるリッチな黒人ビジネスマンのシーンはコミカルなようでありつつも、貧困な黒人たちは資本主義の中で成功すれば黒人であっても攻撃対象にするというシニカルなシーンであったようにも感じた。
白人のバス運転手が途中下車を申し出るシーンも印象的だ。歴史的に見れば白人が黒人を奴隷として差別してきたはずなのに、バスの中でたった1人の白人となった運転手は大声で絡んでくる黒人たちに恐怖を覚えていた。彼が自分はユダヤ人であるという出自を伝えても、白人であるというだけで「逆差別」を辞めない黒人たちを恐れて、彼はバスを降りる。
"おれにも差別意識があったみたいだ"
差別を訴える人間ですら、人を差別するこの社会でどうすれば差別はなくなるのか。
5000㌔もの距離を、延々と口論を繰り広げながら走ってきた彼らが行進に参加できなかったことにその答えが示されているような気がする。
"改革はこれからだ。君たちは自分を変えられるか"
その一方で、スパイク・リーの得意とする黒人ならではのノリやグルーヴといった演出もキレまくっていて、楽しくてカッコいいシーンも盛りだくさん。
みんなが手拍子と同じフレーズを口ずさみながら、ひとりひとり順番に即興ラップで自己紹介していくシーンはとても楽しいし、故障したバスの横で1人が弾き語るギターにみんながセッション的に歌を載せていく様は最高にブルーズとしか言いようがない。そうそう、出発のBGMはJBだった。
訳あり親子のサイドストーリーも最後にぐっと迫ってくれてよかった。
長い長いバス旅の道のりは人生そのものだったのかもしれない。他人を攻撃するのではなく、ひとりひとりが自分を見つめることで人生はより良いものになるのかもしれない。
"我らのせめてもの願いは、この旅を終えた者が皆、前よりよい人間になることです"