けーはち

たそがれ清兵衛のけーはちのレビュー・感想・評価

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
3.8
山田洋次の本格的時代劇。侍はつらいよ。いつも夕方定時ダッシュ帰宅で内職や子育てに奮闘し、「たそがれ」と陰口される微禄の侍。実は彼は小太刀の達人で、お家騒動で上意討ちを果たす役目に──貧乏下級武士の宮仕えのツラさ、家族への愛情や身分違いの恋などのメロドラマが大部分。暗くてジメジメした物語や画面の中に、ヒロイン宮沢りえがパッと明るく灯りを差すような存在感を放つのが良い。剣劇は全体の分量では刺身のツマ程度だが、そこも真田広之や田中泯といった渋くて動ける名役者が喜怒哀楽や気迫・狂気・憔悴を乗せる立ち合いで作品をグッと引き締める。藤沢周平原作の複数短編をうまくミックスし山田洋次らしい家族モノのストーリーにしたうえで地味な部分まで全体的に造り込まれた時代劇だが、宮沢りえの元夫の大杉漣が結婚指輪(当然ながら、江戸時代にそんな習慣はないよ!)をつけていて、「離縁の事実を認めない独善的な男」という性質が分かり易いものの時代劇としてはアレンジが強すぎ、と思ったかなぁ。

あと、クライマックス後の語りで主人公の末路を語らせるなら、「クライマックスで主人公死亡で良くね?」感あるも、その後の劇中で描かれない短くも家族の幸せな時間があってこそ語り手を主人公の娘にした意味があり、それこそが山田洋次作品なのかもねぇという感も。