Epinefrina

たそがれ清兵衛のEpinefrinaのレビュー・感想・評価

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
4.0
日本映画界はこの映画をテンプレートにすべきと言える程、近年の日本映画の中では非常に稀なよく出来た作品

幼稚地味た台詞回しの無い脚本、嘘臭さを感じさせない殺陣、心情・思いの丁寧な描き方、風景・衣装・セットに象徴されるリアリティーの高い時代描写など、全てが非常に質の高さを感じさせる

主演の真田広之の芯はしっかりありながら抑制的な役柄を見事に演じきった演技力と、日本人で唯一見世物に出来るレベルの殺陣・アクションは素晴らしかったが、何より宮沢りえの演技がもはや怪演レベルの凄さ
子役から芸能生活している人間が朋江のような性質を持っているとは到底考えられず、仮に持っていたとしても培われてはいない筈の性質を、持って生まれ尚且つ幼い時から培ったレベルに表現している訳だから恐れ入る

最近の日本映画界は漫画・アニメ作品という転換が容易な媒体を実写化してことごとくといって差し支えないレベルで失敗を続けているが、今作品は資料が殆どない制約があろうとも丁寧に映画作りをした結果、素晴らしい作品となっている
この事を他の第一線で活躍する日本映画関係者がどう捉えているのかで日本映画の趨勢が決まるだろう

対象年齢が低過ぎる台詞回しを恥ずかしげもなく使い続ける脚本、安直に人気漫画・アニメの再現性の低い付け焼き刃感満載で原作ファンや原作者を冒涜しているかのような程度の低い実写化、煌びやかなキャスティングで集客を図る魂胆、中途半端でハリウッドとの差に背筋が凍るCG、リアリティーのない殺陣・アクションなどをこれからも続けて行けば、映画の質は更に下がり続け、延いては興行としても失敗し、最終的には日本映画界を不毛地帯にするだろう

CGでハリウッドに勝てる程の予算が付けられる訳でもなく、派手なアクションに耐えうる役者・裏方を育てる気もない日本映画界にとって本当に大切にしなければならないのは何なのか、日本映画界はどういうアプローチで映画を作らなければならないのかという事を教えてくれる作品なのでは
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