桃子

たそがれ清兵衛の桃子のレビュー・感想・評価

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
4.7
「短編3本分」

公開時に映画館に見に行き、心底魅了されてしまって、もう1度映画館に行ったのを覚えている。私が2度映画館に行くのは非常に珍しい。原作を読んでいたわけではないし、真田広之のファンだったわけでもないんだけど、なぜか胸にぎゅーーんと来てしまったのだ。
最近になって藤沢周平の時代小説にハマっていろいろ読んでいるので、そういえばあの映画の原作も読もうかなと思った。
調べてみると、この映画は同名短編小説のほか、「竹光始末」「祝い人助八」の合計3つの短編を原作としているようだ。長編映画を作るために短編を合体させたわけね。「必死剣鳥刺し」は短編の合体はせずに原作にない部分を追加して長くしてあった。私はこういう演出の方が好きだなあ。
映画タイトルの原作は未読なので、ざっとあらすじだけチェックしてみた。ほんとに映画と話が全然違うじゃない!解説にはたしかに「また同名小説とはストーリーや設定が異なっている」と書いてあったけど、これほど違うとはびっくりだ。
実を言うと、私はあまり山田洋次監督という人物が好きではない(笑)。2回も見に行ったくらい魅了されたので映画の手腕は認める。それに当時は原作を知らなかった。今、あらためて再見してみると、面白いけれどどこか違うかな、とも感じていたりする。人の心は変わるのです…
藤沢周平の原作では、言葉はべつに訛っていない。ところが映画は見事な東北弁である。これは秀逸だと思った点だった。要するに監督はとことんリアリティーにこだわったということなのだろう。テレビの時代劇みたいな仕上がりにするのがイヤだったんだろうなと、ド素人の私が見てもすぐわかる。
同名原作だと清兵衛の奥さんは死んではいない。でも映画では葬式のシーンで始まる。映画では清兵衛の幼馴染の朋江という女性が登場するが原作にはいない。おそらくこの女性が他の短編からもってきたキャラクターなのではないかと思う。これはやはり「竹光始末」と「祝い人助八」を読まないと納得がいかなくなるのかもしれない。
私が一番好きなシーンは、清兵衛が果し合いに行く前に、自宅に朋江に来てもらい、髪を直してもらう場面である。お互いに想いあっているのに言葉にすることはできない。清兵衛は果し合いにいく身の上。数時間後にはこの世にいないかもしれない。壮絶な状況である。それを情景だけで淡々と見せる。監督本人は嫌いだけど、脱帽の演出だ。あと、小者の直太を演じている神戸浩という俳優さん。台詞はほぼないのだけれど、とても印象に残っている。
監督の時代劇三部作は「隠し剣 鬼の爪」はもう見ているので、あとは「武士の一分」だけだ。キムタク?盲目?うーん、あまり期待しないで見てみよう…
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