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関東無宿のnetfilmsのレビュー・感想・評価

関東無宿(1963年製作の映画)
3.8
 線路の前で(といってもスクリーン・プロセスによる合成だが)学校をさぼったセーラー服姿の3人の女性たちが侠客に思いを巡らす。そのうちの1人は身内にヤクザがいて、もう1人は仁侠の世界に狂信的に憧れを抱いているのがわかる。やがてもう1人の女性が核心的な1枚のペラ紙(新聞)を持つ手を挙げるが列車のもの凄い勢いで指からすり抜け、ひらひらと舞い落ちる。橋の欄干に行っても彼女たちの話は続くが、その脇を姿勢の良いぶっきらぼうなキリリとした表情の男・鶴田光雄(小林旭)がいぶかしそうな眼を浮かべながら、早く帰るようにトキ子(松原智恵子)に忠告するのだ。男がすっかり先に進み、橋を越えようとしたところで山田花子(中原早苗)は突然、彼の名前を叫ぶがその声を聞いた男は何事もなかったかのように立ち去る。残りの2人は退出するが、花子の数奇な目はダイヤモンドの冬(平田大三郎)という男の血塗りの腕に魅せられる。鶴田光雄は伊豆一家の一員だが昔気質の男で、弟分の鉄(野呂圭介)と比べて親分の伊豆荘太(殿山泰司)ともイデオロギーにどこか隔たりがあるのがわかる。その日、墨を入れた冬は花子を連れて賭場に出向くが、ガサ入れに遭う。その日から鉄は何も知らない少女を利用し、商売しようとするが対立するヤクザにみすみす彼女を奪われてしまった。

 野口博志の『地底の歌』(未見)のリメイクとなる今作は、脚本もほぼそのまま使用していると言うが俄かには信じ難い。どうやら建設工事請負に関する談合の問題で伊豆組と吉田組とが一触即発の関係にあると察せられるのだが、清順はその辺りの事情を不明瞭で未整理なままとする。花子の雲隠れ(実際には花街に売り飛ばす人身売買だが)をダイヤモンドの冬はひたすら探し当てようとするので、対立する吉田組の報復を恐れた伊豆は鶴田に花子探しを依頼する。だが花子を探し始めた矢先に鶴田は運命の女である女博徒・岩田辰子(伊藤弘子)と再会するのだ。その瞬間から鶴田の対象は専ら、花子の行方ではなく辰子のイカサマへと変わる。この手の話はたいてい、クライマックスは組同士の抗争と相場は決まっているが、イカサマ博打で生計を立てる辰子とおかる八(伊藤雄之助)の2人はそのメッキが剥がれながらも平静を装う。盲目的に女を愛する2人の男はそれぞれに狂信的な愛を貫くが、それに対する花子と辰子の対応はまるで違う。鶴田と辰子の会話の途中でゆっくりと変化していく襖の奥のホリゾントの色彩照明。開け放たれたクライマックスの襖は演劇の上手・下手のようにワイド画面をたっぷりと使いながら、一本気な鶴田のたった2人の殺人の瞬間を切り取る。

 10年の刑期は人も社会も様変わりするという花子の警告が、『殺しの烙印』から『悲愁物語』までちょうど10年の鈴木清順の空白を予期していて何とも皮肉めいている。辰子に代わり、途中で強制退場となるトキ子(松原智恵子)の行方も何だか判然とせず、その勘所を微妙に逸らせる清順の演出に心なしか、主演の小林旭の眉毛も開巻早々よりも徐々に太さを増して行き、監督の不明瞭な演出に「?」を投げ掛けるかのようだ。
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