アニマル泉

関東無宿のアニマル泉のレビュー・感想・評価

関東無宿(1963年製作の映画)
4.5
清順初の任侠映画。野口博志監督「地底の歌」のリメイク。
小林旭が撮影初日に西郷隆盛のような太い眉毛を描いてきたので「ああ、あ奴がやるなら俺もやろう」となったらしい。恐るべし!確信犯の清順!
ファーストシーンからトキ子(松原智恵子)花子(中原早苗)松江(進千賀子)のアップの連打「侠客って何?」、チラシが宙に舞う、映画館をパンダウンして地面に落ちている侠客映画のチラシ、という具合だ。アップばかりで説明的なロングがない、ジャンプカット、「高さ」の主題、見事に本作の特色が出揃っている。
「高さ」の主題では本作は主要な場所が全て階上にある。麻雀屋、賭場、全て「階段」で出入りする。舞台は品川あたりで川が印象的だ。浪曲がかかる。伊豆組の組長役の殿山泰司、イカサマ賭博師のおかる八役の伊藤雄之助が清順作品では新鮮な配役だ。おかる八のイカサマは相手の手札をライターなどの映り込みで盗み見る手口で、勝田(小林旭)との勝負では寿司の醤油皿の映り込みでイカサマをする。この場面、手札と寿司に伸びる指がアップで交錯して異色だ。
本作はなんといっても賭場での立ち回りで勝田が相手を斬ると周りの障子が一斉に倒れて背景が真っ赤になる、そして真っ赤な画面が挿入されると、雪が降りしきるなか勝田が吉田組に乗り込んで行く場面だ。清順の最も伝説的な場面である。清順のインタビューによれば歌舞伎の舞台崩しのような派手な効果を狙ったらしい。さらに「本当は赤い雪を降らせるつもりだった」という。もう唖然となるしかない。是非見たかった。
この他にも勝田と辰子(伊藤弘子)のラブシーンは照明チェンジが使われる。二人が初めて関係する場面は二人の照明が真っ暗になり、奥のススキの花瓶だけが浮かび上がり、照明が戻るといきなり二人が抱き合うショットにジャンプする。あるいは辰子が弟のダイヤモンドの冬(平田大三郎)の相談を勝田にする場面は、二人のバックのガラス窓が夕陽に赤く染まるのと昼間の光線がチェンジする。照明チェンジではないが、旅館で鉄(野呂圭介)が電灯を揺らすと部屋全体の光と影が大きく揺れるのも面白い。そして揺れる電灯から静止している電灯に直結で繋いでシーン替わりする。
本作は物語が後半に破綻してしまっている。トキ子が尻切れトンボで終わってしまう。勝田はトキ子には手を出さず辰子を惚れている設定だ。辰子役はなかなか決まらず美術の木村威夫が伊藤熹朔(美術デザイナーの大家)の娘の伊藤弘子を推薦して決まったらしい。ミスキャスティングだ。伊藤弘子では無理がある。勝田がトキ子を振ってまでのめり込む魅力がない。どう見ても松原智恵子がいいに決まってる。
本作はいつもの清順作品と比べてカメラの高さやアングルが違う。和室が多いのだが、下半身中心の高さが多い、あるいは俯瞰もいつもより多い。和室での座りと立ちの配分も独特だ。何かいつもの清順のジャンプカットのリズムと違和感がある。
キスシーンも俯瞰や逆さまからのアップなど独特なモンタージュになっている。
障子の影の使い方が効果的だ。ラストの留置所の格子と格子の影が多重になる画面も面白い。
サスペンスが高まるといきなり糸が張られて、プツンとまさに緊張の糸が切れたのは清順の底なしの娯楽志向なのだが、あまりにもアナーキー過ぎて一瞬何が起きたのか分からなくなる。
「赤」の主題はトキ子が齧る果物などに見られるが、「赤い着物は囚人、白い着物は侠客」というヤクザの家訓が反復される。
本来のラストカットは、辰子が留置所から戻ってきて、おかる八に勝田との関係を見抜かれていることを知り、風鈴が鳴るカットで終わりだったのが試写で日活の上層部から「これでは終われない」と注文されて、小林旭のラストカットを追加撮影したとのことだ。
カラーシネスコ。
アニマル泉

アニマル泉