尿道流れ者

陽炎座の尿道流れ者のレビュー・感想・評価

陽炎座(1981年製作の映画)
4.8
ツィゴイネルワイゼンが少しポップになったような映画。生きている女と死んだ女の情念のなかで優作の魂が揺れて引き込まれていく。鈴木清順の映画は生きている人と死んだ人が同列で描かれるから面白い。生死で優劣がつかず、同じ強さの力を持って干渉しあう。命という借り物のおぼつかなさが真に迫る様は恐怖よりも、生の実感という形で観ている側に訴えかける。生と裏返しにある死、それらが回転扉のようにグルグルと回り続ける。

画面からはみ出し迫る極彩色はツィゴイネルワイゼンよりも増していて、さらに笑いの要素も増している。しかし、ツィゴイネルワイゼンのような締まりはない。
原作となる泉鏡花の小説はあまりにも豪華絢爛な文章と動物的なリズミカルさに酔わされる。
この映画の凄さは原作にあるそういったナチュラルさや格式高さを全く取り入れてないところで、映画にはぎこちなさと不安定さ、作り物然とした突き放しがある。
泉鏡花の魅力に飲み込まれることなく、全く別の観点から組み立てられている。

女の魂はおもちゃのように扱われるが、決してその通りに堕ちることはなく、したたかに力強く脈を打ち続ける。しかし、男の魂は奪われる道筋を立てられることなく、自らによって差し出され、いともたやすく腑抜けになっていく。女の情念と男の盲目さ、醜くつまらないものであっても、それらが寄り添うことで魅力的なドラマとなる。文学的であることとエンターテイメントであることが共存しあえる要素であることを最も簡潔に正しくみせてくれる作品。