碧

家族の肖像の碧のレビュー・感想・評価

家族の肖像(1974年製作の映画)
4.3
好きな絵画、かつての美しい妻の記憶などに囲まれて、日常の細々したことは老メイドが引き受けてくれ、不足ない静かな生活を送っていた老教授。
突然現れて二階を貸せと迫るどこかの金持ちの夫人ビアンカ。断っても引かず、吸ったタバコを床に投げ捨てるなど粗野な態度を取り、自分の美しい娘リエッタやその婚約者ステーファノ、夫人の愛人である青年コンラッドまで連れてきて教授の静かな生活をかき乱す。2階の部屋を勝手に改修して階下に轟音を響かせ損傷を与えたり、コンラッドはかつての仲間に襲われる騒ぎを起こしたり。でも教授は音楽の趣味が合うこともあってコンラッドの手当をする。

そんないくつかのできごとはむしろふれあいということで教授を孤独から救ったのか?
でもそもそも教授は孤独だったのか?
映画のなかで教授は個人の名前を呼ばれないけれど、他の人の名前は呼び、返答されていた。


教授の孤独は、随時離脱可能な自ら求めたもので、学校でのいじめのような本当の孤独とは違う気がする。
でも懸命にコンラッドの手当をしたり不器用でも隣人を気にかける様子は共感できる。

ビアンカの時代がかった細眉の化粧はコワイが、サイケデリックな化粧をしたデビッド・ボウイを思い起こさせ、斬新なスタイルを典雅に着こなしときおり見せる繊細な横顔は役割を演じきった上での個性を感じる。
リエッタは自然で可愛らしい美しさ、ちょっと内気そうなステーファノ、ガラスのように鋭い美しさのコンラッド、この三人が、借りた二階で裸で戯れるシーンは明るい音楽に彩られボッティチェリの春の三美神のよう。


1978年日本で公開されたとき、この映画はヴィスコンティブームのきっかけになったと聞いた。
キャストの美しさや老教授の渋い佇まいもさることながら、孤独を考えさせる深さ、そんなことも理由にあるのではないかと感じた。
碧