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北の螢のtheocatsのレビュー・感想・評価

北の螢(1984年製作の映画)
3.8
ネタバレ
鬼の刑務所所長、女郎、強制労働服役囚の話

明治政府による北海道開拓、満足な食事も服も与えずに真冬でも刑務所の囚人をこき使い死人の山を築く鬼の刑務所所長。
その積年の恨みを果たそうと執念を燃やす囚人たち。
そしてその間で翻弄される女郎屋の女たちが織り成す複層劇。

総論から述べると映画として完ぺきとは言えないだろうが、中々の充実をもたらしてくれた作品。
どういうわけか五社監督の画作りが個人的嗜好に適合しているようで、かっちりした構築性と躍動性という二つの要素を含めた全体的映像に満足を感じる場合が多い。
ヒグマがちゃちいとかあるけれどそれは愛嬌。笑

ストーリー性に関しては、情になびく女、プライドゆえに自害する男、或いは暴走する男というちょっと分かりにくい複雑な男と女の思惑のズレと「皮肉性」をどうにか成立させていたように思われる。

囚人の夫や情夫を救いたいが故に女郎に身を落として機会を待ち受ける女二人。
一人は所長の情婦となり囚人の男と面会にまでこぎつけるが、全囚人を解放し命果てるつもりの玉砕指向的男は一緒の逃亡ではなく女に所長暗殺を厳命する。
女は別のいざこざで失明した所長を刺殺しようとするが失敗。逆に情に絡めとられ所長の本当の情婦になってしまう。

もう一人の女が持ち込んだ刃物により雪中強制労働の囚人たちが一斉蜂起。
巡回に来た所長と情婦、その他一行を襲撃し捕虜にしてしまう。

しかし、開拓民の空き家で休憩中にヒグマに襲われ命からがら脱出。海まで逃げるはずだったがなんと元の刑務所に到着してしまう。
絶望に囚われた玉砕指向の男は所長と情婦を解放し自分は自害し命果てる。

刑務所に戻った所長だが新所長が既に着任していて居場所がない。新所長になじられ殺されそうになるものの逆襲で取り巻きを殺害。
やけくその仕返しに牢の鍵を囚人に投げ与え、玉砕指向の男がそうしようとして果たせなかった「囚人解放」を成し遂げる・・・

上以外のエピソードもてんこ盛りではあるが、それぞれ有機的に連結されているので思考的には納得はできるものの、視覚的にややとっ散らかった印象は受けた。
それでも総合的には北海道開拓の一側面をよく伝えてくれるいい作品と感ず。

音楽や効果音も古臭いが的確なタイミングで場に適合した用い方がされていた印象。
森進一さんの歌唱にはちょっと驚いたが、いやいやいい味出してましたよ。笑

総評としては3.8の四つ星


北海道開拓は本当に酷かったようで、囚人ではなくても何も知らずタコ部屋に放り込まれ監視付きで死ぬまで働かされるなんて珍しくなかったようで。そこから命からがら逃れ後に大企業の社長になった人の自伝を読んでは身震いした。

022010
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