なべ

ゴッドファーザーPART IIのなべのレビュー・感想・評価

ゴッドファーザーPART II(1974年製作の映画)
4.0
 新文芸坐で「ゴッドファーザー・トリロジー」が上映されたので2日かけてPart IとPart IIを観てきた。いやあ、やっぱりいいわ。
 昨今、何かと批判されがちなメソッド演技だけど、ぼくには説得力のあるリアリティとえもいわれぬ見応えが存分に感じられる極上の演技法だ。体力と精神はかなり摩耗するけどね。そんなメソッド演技が堪能できるゴッドファーザーシリーズの第二弾。マーロン・ブランドが抜けた穴はデ・ニーロとリー・ストラスバーグ(メソッド演技法を確立した演技指導者)が埋める。
 Part Iはすでにレビューしてるので割愛するが一言だけ。ラストでクラメンツァがマイケルに忠誠を誓う「ドン・コルレオーネ」ってセリフで涙が溢れてきたことを報告しておきたい。スクリーンで観ると、言葉の重み、説得力が全然違くて、心がよじれそうになったわ。テレビサイズだとこうはいかない。

 さて、原作に書かれていたものの、Part Iで描かれなかった父・ヴィトーの成り上がっていく様と、原作にはない息子・マイケルのその後の姿を並行(時に交錯)して描くコルレオーネファミリーの叙事詩Part II。
 今見ても父と子、2人のコルレオーネの対比が見事過ぎる。二つの時間軸を行き来するけど、混乱は一切生じない巧みな編集だ。
 暖かく、頼りがいがあり、行動力のある青年期のヴィトーをロバート・デ・ニーロ(もちろんアクターズスタジオ出身)が演じてて、マーロン・ブランドに劣らぬ名演技を見せつける。それはもう圧倒的な存在感とリアリティ。
 まず、巨費を投じて再現された1920年代のリトルイタリーの景観が素晴らしい。当時の移民の暮らしぶりがノスタルジックに描かれていて、まったく知らない情景なのにどこか懐かしい。ウォームトーンでカラーグレーディングされた過去パートに否応なしに郷愁センサーを刺激されまくる。懐かしさってポジティブ寄りの感情だから、ヴィトーが泥棒したり人を殺しても何だか正しいことのように思えちゃうのよ。だから逆にマイケルの非情さが際立つというか、親父さんならそうはなってねえなんて思ったりするんだよね。
 思えばファミリーと家族が同義だったヴィトーの頃はよかった。人を脅して感謝され、人を殺して尊敬を得られるほどシンプルな時代だったから。父のように人を脅し、殺しても、誰も感謝などしてくれない。ただ怖れられ、恨まれるマイケルが憐れ。信じる者に裏切られ、敵を欺く嘘で味方の信頼を損ね、家族を守るために家族を傷つけ、ファミリーを守るために家族を殺す。何をやっても裏目裏目で、気がつけば周りには誰もいないっていうね。一生懸命、うまく立ち回ったはずなのに…。
 教会での儀式と5大ファミリーの暗殺が同時に描かれたPart Iと同じく、釣り糸を垂らすフレドーの祈りのなか、殺戮が実行されるクライマックス。見せ場としてはPart Iより劣るものの、フレドーに手をかけるマイケルの冷徹さが悲しい。
 フレドーの最期からの回想シーンが秀逸。賑やかな家族の喧騒が懐かしい。入隊を褒めてくれた兄フレドーの優しさと嬉しさに涙する。バカだけどいい子なのよ。

 他にどんな選択肢があったのだろう…さまざまな思いが去来し、考えても考えても答は出ず、自分は孤独であることだけが確かな事実として身にしみる初老のマイケルのアップで物語は閉じられる。
 …重い。重いよ、コッポラ。てかマイケルがかわいそ過ぎる。あまりのつらさに耐え切れず、ぼくはアポロニアに思いを馳せる。彼女が生きていたらと夢想するのだ。シシリーの女性なら、マイケルの家業をまるごと受け入れ、そのままの彼を愛し、支えられたのではないかと。少なくともケイのように悍ましがったり、軽蔑することはなかったはずだ。ぼくはマイケルが愛し下手なのはケイのせいだとさえ思っている。コニーの結婚式の日から、マイケルの家がヤクザだってことは知ってたはずだろ、ケイ。一見、あの家でもっともまともな人間みたいに振る舞うけど、ぼくには一番タチの悪い奴に見える。そりゃマイケルにぶん殴られるって。いやあ、ほんとアポロニアの爆死が悔やまれるわ(ちなみにアポロニアを殺したファブリツォは、渡米し店を開くが、マイケルによって報復される。Epicで確認できるよ)。
 作品としてのおもしろさはPart Iに軍配は上がるけど(昔はPart IIの方がおもしろいと思ってた)、続編としての完成度は恐ろしく高い。一作目に続いて続編がアカデミー賞作品賞を獲ったのは後にも先にも、本作だけだ。傑作。

 あ、言い忘れてた。ニーノ・ロータの劇伴は悪魔的。偽りの和解なのに、完全に泣かされる。感動の中でアルに目配せするマイケルに戦慄するけど(アルがいい演技するのよ!)、曲が盛り上げてるから涙は止まらない。先日の太陽がいっぱいといい、このイタリア人の奏でる旋律はこわいくらい人の心を操る。
なべ

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