ちろる

炎の人ゴッホのちろるのレビュー・感想・評価

炎の人ゴッホ(1956年製作の映画)
3.7
人が好き、好きすぎて、愛しすぎる
世のため人のために何かをしたくてたまらない。
しかし人に理解されにくく、最後まで孤独に生きたフィンセント・ファン・ゴッホの伝記的映像作品。
有名な彼の絵画に描かれた風景がそのまま再現されているような色彩豊かな映像で、素描時代の彼の作品も登場するのでワクワクする。

ゴッホを描いた作品の中であまりに有名な大作故に、カーク・ダグラス演じるゴッホでイメージがつきすぎたとも言われている作品。
狂気的なイメージがとてもハマっていたが、繊細なフィンセントのイメージと異なりカークの演じるフィンセントはとても力強い。(邦題の炎の人というのは言い得て妙。)

伝記的な作品という印象なのは彼の作品では珍しく、こちらの作品はフィンセントが牧師の時代から描いているから。
画家になる以前、落第ギリギリの牧師見習生で、僻地の貧しき炭鉱の村に飛ばされたフィンセントは、想像を超えた貧しき人々の目の当たりにして彼らと同一化していく。牧師会の上の人間は威厳ある存在であるべきと見窄らしく過ごすフィンセントを叱咤し、そのため彼は逆上して牧師人生は閉ざされる。

教会に神はいない
夜空の星に、木々の中に、風に揺れる稲穂の中に神が見守っているから、牧師会を辞めさせられたのちは教会にも行かず、自然や労働者たちの姿をキャンバスに描くことに夢中になる。
彼にとっての祈りとは【drawing】

寂しがりやで、優しいのだけどかなり執念深くて、逆上しやすい。
本作はそんなゴッホが少々攻撃的なゴーギャンの性格と、その2人の間に始まるすれ違い、価値観の違いにゴーギャンがついていけなくなった様子がかなり細かく描かれてるのはおそらくこの作品だけ。
少し粗野で大胆だが綺麗好きでしっかりもの。フィンセントとは対極にいるこのゴーギャン役のアンソニー・クインが実に良い!
互いに印象派画家だが、あるがままの自然を描きたい写実主義のゴッホと、想像の産物を描きたいゴーギャンは絵画について語り合うと常に対立し、耐えられないゴーギャンは再びパリに戻ってしまうわけだが、それがあの耳切事件へと発展するわけだが、そこの描写もなかなか細かく描かれている。

ちなみにアルルに着いてからの生活について、ゴッホはほぼ毎日のようにテオに手紙を書いていたそう。
そして、後から同居したゴーギャンもテオに『ゴッホといるの辛いよー』的な苦情の手紙を送ってるので明らかになってる事が多いので多分この映画の通りっぽい・・・怖!

弟テオ、やその妻のヨー、医者のガシェ夫妻、郵便屋ルーラン、医師のレー、ジヌー夫人・・・
ゴッホに優しかった人も数えられるほどにはいて、誰にも愛されなかったわけではないという事もこの映画ではしっかりと見せてくれるので、身につまされるシーンばかりではないのは救われた。
短い生涯ではあったが、濃厚すぎる彼の人生についてここまで細かく描かれる作品はなかなか少ない。
彼は手紙魔だった為、彼の人生のほとんどは記録に残っており、おそらく相違も少ないと思われるので、長い彼の人生を見せてくれる本作は、彼の事を細かく知るのにはとても良いと思う。
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