テオブロマ

炎の人ゴッホのテオブロマのレビュー・感想・評価

炎の人ゴッホ(1956年製作の映画)
3.6
プレミアムシネマでやってたのを録画して鑑賞。カーク・ダグラスが画面に映った瞬間、うわっゴッホ!と思うくらい本人だった。特にマニアックな知識は必要なく、美術に関して一般教養レベルの内容を知っていれば誰でも楽しめるようになっているのが良い。印象派が現れた当初、評価されるどころか画家達はろくでなし、反社会的とされてたくだりが面白かった。いわゆる正統派な絵画を集めた展覧会の会期にぶつけて印象派展をやったって世界史で習った記憶がある。

本作のゴッホは痛々しいという表現がぴったりで、何かを成そうと常に懸命にもがいているのは嫌ほど伝わってくるのに、いつもそれは駄目だよって方向になぜか突っ走ってしまうので、だんだん観ていて辛くなってくる。なりふり構わず愛を求める姿、周りの目に全く頓着せず絵を描き続ける姿、ゴーギャンに異様に執着する姿、どれもこれも常軌を逸していてもはや怖い。これは映画だけど、きっと本当にあんな感じのめんどくさい人間だったんだろうなと思える。あんな傑作を多数生み出した画家がまともな人のはずないし、天才は皆変人だもの。

ゴッホの精神が危うくなるにつれ音楽もどんどん不安定になっていって、追い詰められている感じが嫌というほど伝わってくる。あの耳のシーンは完全にサイコホラーだった。下手なホラー映画より怖い。

弟テオが兄を愛し支えたことはよく知られているし本作でもその通りだったけど、なぜあそこまで兄に献身的になれたんだろう。兄は明確に変人だけど、この弟もちょっと度が過ぎていると思う。金銭的な援助もだし、精神を病んで入院するような人をいくら身内とはいえ引き取ろうとするなんて、妻子からしたらたまったもんじゃないのでは…しかも本人も自覚してる通り他害の可能性がある訳だし。せっせと手紙を書き続けたゴッホもそれを後生大事に取っておいたテオもすごい。

誰にでもというほど気軽には勧められないけど、美術好きならきっと楽しめるはず。本編開始直後と最後に撮影に協力した美術館などへの感謝の言葉が並べられているけど、この面白い作品のためにどうもありがとうと私も言いたくなった。

ところでゴーギャン役のアンソニー・クイン、見覚えあるなと思ったら『道』のザンパノだった。この人って凄んだり殴ったりする暴力的な役柄が似合うなぁ…。
テオブロマ

テオブロマ