ボブおじさん

招かれざる客のボブおじさんのレビュー・感想・評価

招かれざる客(1967年製作の映画)
4.2
〝人種差別はいけないよ〟と人としてあるべき道を教え、一人娘を大事に育てたリベラルな金持ちの老夫婦のもとに、ある日まっすぐに成長した娘がフィアンセを連れて帰ってくる。

知的で思慮深い彼は超のつくエリ-トの医師で、学歴・経歴共に文句のつけようのない理想的な男性に見えた。ただ一つ、彼が黒人であること以外は。

社会派の名匠スタンリー・クレイマー監督が、本作の製作当時、アメリカにおいて大きな問題となっていた、アフリカ系に対する人種差別問題に真っ向から取り組んだ、今見ても考えさせられる作品。第40回アカデミー賞では脚本賞のほか、母親を演じた名女優キャサリン・ヘプバーンが2度目の主演女優賞を受賞した。

彼女と長年公私にわたり名コンビを組んだ父親役の名優スペンサー・トレイシーは惜しくも本作が遺作に。アフリカ系青年に扮した黒人初のスター俳優シドニー・ポワチエも含めたオスカー受賞者が共演。

ハワイで知り合い、人種の壁を乗り越えて恋に落ちた、著名なアフリカ系医師ジョンと白人女性ジョーイ。2人は結婚の許しを得るため、サンフランシスコにあるジョーイの実家へと向かう。

タクシーの中での2人の会話、どこか既視感があると思ったら思い出した。ジョーダン・ピールの「ゲット・アウト」の冒頭はこのシーンのパロディだったのか‼︎

ジョーイの母は、娘の婚約者がアフリカ系だと知って驚くが、次第に彼らに理解を示しだす。一方、父はリベラルな新聞の発行人として人種差別反対の論調を張ってきたが、いざわが娘をアフリカ系に嫁がせるとなるとその心境は複雑で……。

初めて見たのはもう30年以上前だろうか。当時独身だった私は、ジョンの立場で偏見による人種差別を虚しく思ったような気がする。今回は自分が年齢を重ねたこともあり父親の心境でこの映画を見た。

リベラルを謳う父親に差別の気持ちがゼロだったとは思わない。だが根底にあるのは差別よりも娘を心配する親の心だ。今では考えられないが映画公開当時、異人種同士の結婚は17の州ではまだ違法とされていた。このような社会情勢の中、2人のそして産まれてくる子供たちの未来を心配しない親はいないのではないか。

黒人解放運動に賛同する家政婦の黒人女性がジョンに抱く敵意剥き出しの感情もおそらく根っこは同じだろう。

公開から半世紀以上経った現在、世の中は大きく変わった。法律や人々の意識も改善したかに見える。だが自分の事として考えると心の中のモヤモヤは晴れない。

〝君が怒っているのはジョンに対してじゃない!奥さんや娘でもない!一瞬で価値が転覆している自分に怒ってるんだ〟友人である司教から父に放たれた言葉にギクリとする。

果たして自分の身に同じことが起きたなら自分は理想的な人として父親として振る舞うことが、できるだろうか?
人種・国籍・言語・宗教・習慣、今の世の中はこの頃と比べて多様性に対して本当に成熟したと言い切れるだろうか?

私を含む多くの自称リベラルな日本人に、今こそ見てほしい映画だ。普遍的名作といえば陳腐に聞こえるが、時間を開けてまた見返し、また考えてみたいと思う。

原題は「Guess Who's Coming to Dinner」、世界中の娘たちが親に何の気遣いもすることなく〝夕食に誰が来るか当ててみて〟無邪気にそう言える日がいつか来るのだろうか?

「招かれざる客」今なお賛否両論あるこの邦題がズシリと重い。