イホウジン

007/慰めの報酬のイホウジンのレビュー・感想・評価

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)
3.4
全てが前作の弔い合戦

完全に初見殺しの映画だ。いきなり劇中に登場しない人物名が出てくるし、前作を考慮しないと感情の揺らぎも上手く理解できない。シリーズものなので逐一突っ込むのもアホらしいが、正直「一本の映画」としての完成度はあまり良くないように思える。派手なアクションやそれなりに闇の深い敵など、見どころはそれなりにある。だからこそ、今作の全体的なテキトーさや後日談感がひたすらに残念である。
前作の影響を強くしたことによって最も影響を被ったのが、今作のボンドガール2名だ。一人は完全に『ゴールドフィンガー』のそれでしかない。まあ前作より続く過去のボンドへの自己批判の文脈から、やりたいことは分かるのだが、いささか安直すぎるように思える。またもう一人の方(真木よう子似?)は、現代的な「闘う女性」で、その自律性から過去作にない新しさを感じられたが、ぶっちゃけストーリーの本流と関係がない。とても魅力的な登場人物だった分、その使われ方がとにかく残念だった。
あと敵ボスが最後の最後でしょぼくなるのも残念だった。知的なサイコパスといういかにも陰湿な立ち回りであったにも関わらず、最後の泥沼化した戦闘は一体なんだったのか。グローバリズムと環境問題の闇に触れるスリリングな展開も用意されていたが、それらが回収されなかったのも心残りだ。次作以降に反映されるのだろうか。
ところで今作の主軸となるのが「ボンドが人を殺しすぎる」という話題だが、正直この問題提起自体がナンセンスなように思える。というのも、メタな話になるが、観客はスパイ映画に対してそこまで人道性は求めていないように感じられるからだ。確かにボンドは英国的な紳士ではあるが、人殺しであることに変わりはなく、故に今作の問いに今更感が生まれるのである。ちょうど『キングスマン』が示している通り、スパイ映画が観客のために追求すべきなのは、少なくとも道徳的な正しさではないだろう。確かに今作のボンドには無益な殺生が多いが、それに対して自主規制をしようとするのは、さすがに萎縮しすぎなように感じる。
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