何人もの監督が映画化権を争った格好の題材を今村昌平が期待に違わぬ粘質感のある濃厚な演出で映画化した。
5人を殺害して日本全国で逃走人生を送った末に逮捕され、死刑に処せられた実在の連続殺人犯、西口彰。その犯罪人生を、膨大な取材資料をもとに再構築して話題を呼んだ佐木隆三の同名ノンフィクション小説が原作。
迫真の演技で稀代の悪党を演じた緒形拳の貪欲な生への執着心、男を惹きつける倍賞美津子の妖艶な肉体、神に仕える身でありながら息子の妻と関係を持ち、理性と本能の狭間で苦悩する父を演じた三國蓮太郎、本能のまま情愛に溺れ身を滅ぼす小川真由美、その母親にして犯罪者の性根を嗅ぎ分ける清川虹子。
第一級の原作を元に巨匠今村が、登場人物たちの内面に鋭く迫り、公開当時は数々の映画賞に輝いた。本物の映画俳優とテレビタレントが明確に区分されていた最後の時代の傑作実録サスペンス。
