タラコフスキー

諜報員のタラコフスキーのレビュー・感想・評価

諜報員(1947年製作の映画)
4.0
唐突なラブ・シーンに始まり、唐突なラブ・シーンに終わるソ連のスパイ映画。敵地に降下する前に戦闘機内で恋人に手紙を綴るショットと、窓が開いた部屋で風に吹かれながらその手紙を読む恋人のショットを交互に見せるシークエンスは、戦闘機の疾走感と、風に吹かれる恋人の描写がマッチし、美しい仕上がりとなっている。この映画を見て真っ先に気づくのは、スパイ映画にもかかわらず、決定的な殺人のショットが一つも見られないことだ。二重スパイがソ連のスパイを殺すシーンでは、後ろ手にナイフを持つ描写だけにとどめ、主人公がその二重スパイを殺すシーンでは、殺される二重スパイを画面外に追いやってから引き金を引く。「活躍するすべてのソ連の諜報員に捧ぐ」と標榜された本作だが、そんなことには無関係の子供達を含む一般市民だけでなく、制作されたから70年後の日本人までをも魅了する、緊張感だけで魅せるサスペンス映画でもあるのだ。ナチスの大物を捕らえて祖国に帰るシーンの車の疾走感も素晴らしい。緩急を操り、観客の心をも自在に操るボリス・バルネットの手腕に賛辞を送らねばならない。
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