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ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男のrage30のレビュー・感想・評価

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「謎の大富豪の自伝を捏造する」…という、あらすじからして興味深い本作。

前半は大富豪の情報を得たり、出版社を説得する描写がスリリングに描かれます。
ここで活躍するのが主人公の親友ディックを演じる、アルフレッド・モリーナ。
良い奴なんだけど、微妙にポンコツな相棒役をユーモラスに演じています。
彼のおかげもあって、前半はほとんどコメディーと言っていいでしょうね。

後半になると、物語はより複雑で深刻になっていき、段々とノワールの世界へ。
本作で1番印象的だったのが、主人公が追い詰められて「遂に降参か?」と思いきや…というシーン。
このシーンは背中から撮る事でミスリードを誘い、初見の人なら「あ!?」と騙される事でしょう。
驚きと同時に、エモーショナルで、主人公の覚悟が伝わる名シーンでもあり、ここで一気に心を掴まれた気がします。
まさに「HOAX(でっち上げ)」な、このシーンを見るだけでも、この映画を見る価値があると、個人的には思いますよ。

一線を越えた事により、主人公の暴走は加速し、狂気は深化していくわけですが、不思議と主人公に嫌悪感は抱きませんでした。
悪党ではあるけど、ある意味では純粋に夢を追う男でもあるし、リチャード・ギアの嫌味のない演技も良かったですね。
そして、何よりラストにある大オチによって、「ここまで人を騙せたら凄い!」と感心させられるのです。

確かに主人公は悪党かもしれない。
でも、このアイディアを思いつき、ほぼ完璧に実行してみせた、彼の努力と執念は、それはそれで認めざるを得ません。
だからこそ、ラストカットから伝わってくる、彼のファイティングポーズにグッと来てしまうのです。

アメリカ産のピカレスク特有の抜けの良さというか、ある種の痛快さ、爽快さすら感じさせる本作。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』等が好きな人なら、間違いなく楽しめる作品でしょう。
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