モリアーチー

美女と液体人間のモリアーチーのレビュー・感想・評価

美女と液体人間(1958年製作の映画)
4.0
東宝の「変身人間シリーズ」三部作の第一作です。東宝の特撮映画全般でタイトルに「美女」と付くのはこの一作のみです。このタイトルは当然『美女と野獣』を意識したものです。

音楽は佐藤勝です。不気味な旋律と共にオープニングから核実験のキノコ雲が映し出されます。タイトルに変わると音楽も急に変調してマーチ調に変わります。かなり不思議な曲です。

最初のシーンで地下から鞄を抱えて走ってきた男が、待っていた車のトランクに鞄を入れると突如苦しみ出してピストルを地面に撃ちまくります。車に置き去りにされた男はタクシーに轢かれるのですが、服を残して身体が消失していました。これは1954年の先駆的作品『透明人間』への返歌でしょう。『透明人間』だとタクシーが轢いたのが見えない人間で、逆に死ぬと徐々に見えるようになります。

この消えてしまったギャング三崎は伊藤久弥なのですが、夜のシーンで雨も降っていて、かつ帽子を目深に被っていますのでよく顔が分かりません。観客は警察の写真でようやく男の顔を確認できます。この三崎は以後現れませんが、実は重要なキーパーソンなのです。覚えておきましょう。

ナイトクラブやキャバレーを根城にするギャング団の暗躍、ギャングの情婦の歌姫のヒロイン、ギャングの起こす凶悪事件とギャング団と対抗する不可思議な何ものかが絡みあって展開するところは『透明人間』と良く似ていますし、ポスターの雰囲気までそっくりです。

『美女と液体人間』が『透明人間』と決定的に違うところが二つあります。一つは冒頭から警察が組織だって動き、麻薬ギャング団を追い詰めようとするのを描く点です。そのため刑事達も平田昭彦、小沢栄太郎、土屋嘉男、田島義文、中丸忠雄と数多く豪華な面々です。1956年の『暗黒街』をはじめとする東宝の「暗黒街シリーズ」の番外編のようでもあります。

もう一つの違いはヒーローの存在です。『透明人間』は怪人=ヒーローでヒロインの三條美紀を助けますが、『美女と液体人間』では政田という科学者がヒーロー役で登場します。政田は液体人間の謎を解こうとして三崎の情婦で歌姫の白川由美に近づき、結果的にギャングとも対峙することになります。政田役を佐原健二が演じています。『空の大怪獣ラドン』コンビの再共演です。

監督は本多猪四郎、特技監督は円谷英二。原作者は海上日出男ですが職業作家ではなく東宝の俳優だった人で前年には既に亡くなっていました。脚本の木村武は後に本名の馬淵薫でも活躍します。

特撮は地味ですが視覚効果としては見事です。生きている液体が壁を伝って動き回り、人を飲み込みます。液体人間は『ブロッブ』や『怪獣ウラン』のような粗っぽさはなく、人間の精神活動を宿していますから意図を持って行動します。東宝らしい反核兵器のメッセージ性を保ちつつ娯楽映画に徹した佳作でした。
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