さらまんだー

アルファヴィルのさらまんだーのレビュー・感想・評価

アルファヴィル(1965年製作の映画)
4.0

ゴダール描く近未来SF映画。

政治にコンピュータが活用され、
共産主義を思わせるような世情の地域"α都市"へ別の国の記者が取材に訪れる話。
あくまで資本主義の観点から書いているような言い回しもあり、どのような政策であれ、コンピュータに依存した政策を行った社会の末路をブラックユーモアで表現したようにも取れる。

芸術を感じ楽しむような心、人間の心に宿る感情や思いを一切排除されることとなった架空の都市を作り上げることで、テクノロジー至上主義に対する人類への警鐘のようにも感じた。60年代まだインターネットのない時代にこの視点。いかに当時の映画監督が今を見つめ未来に何かを残そうとしていたのかは言うまでもない。

映像やセットで分かりやすくSF表現を行う訳でなく、登場人物の会話や行動、衣装等で、不可思議・不気味さがありながらどこか現実的である世界観を創造しているのはヌーヴェルヴァーグならでは。『このシーンの音楽が合ってない。』『もう少し見やすく写して欲しかった。』こういった先入観こそヌーヴェルヴァーグとは相対し、世の中の美しさや価値が総て理解され得るものとは限らないと強調する。既存の価値観に縛られず、自身の欲望の赴くままに。欲望というと何か卑猥で憚れるべくあるもののように感じられるが、人間の行動の根源、エネルギーの源であり、作り手の美学と芸術性が映画という媒体を通して色濃く映し出させる際に、作り手の極めて私的で独善的な欲望ほど信用できることはない。少なくとも私はそういうエネルギーに満ちた作品が好物であり、人生で心動かされた映画や作品の多くがこれに共通する。

今作はゴダールにしては直接的な表現も多いが、SFの近未来設定とゴダールの掛け合わせは面白い試みであり、SFというジャンルであるがために解像度をギリギリまで上げた試みとも取れる。思わず切り取りたくなるような美しい描写や、ヌーヴェルヴァーグ特有の隠せぬ飢餓心も随所に見てとれる。
その独特な表現は私の感性を大きく刺激し、凝り固まった価値観や考え方に支配されつつあるときに、本来人間が持つ自由、選択肢の広さを改めて考えさせてくれる。
映画とは娯楽であり、個人そのものなのだ。定期的に見ることになるだろう映画の一つ。
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