せんきち

灰の記憶のせんきちのレビュー・感想・評価

灰の記憶(2001年製作の映画)
3.8
ホロコーストものの中で数少ないゾンダーコマンドに焦点をあてた映画。


アウシュヴィッツ収容所では大量のユダヤ人を処刑し処理しなければならなかった。ガス室への移送、死体の搬送、処理(完全に灰にする)といった汚れ仕事をナチは一部のユダヤ人に押しつけた。彼らはゾンダーコマンドと呼ばれ、処刑の16週間延長という報酬と引き換えに汚れ仕事に勤しむのであった。



「どうせいつか殺される」絶望の中、ゾンダーコマンド達は暴動を画策する。しかし、ガス室で奇跡的に生き残った少女をみつけてしまう。ゾンダーコマンドのホフマンは彼女だけは助けてやろうとするのだが...



実際にアウシュヴィッツで起きた暴動事件をベースにしている。書くだけで胸くそ悪くなるが事実なので仕方ない。勿論、我々はこの暴動が失敗することも知っている。この映画が最悪の結末を迎えるであろうことも。



ホロコーストの恐ろしさは数々の映画で描写されてきた。本作でも機械的、工場の様な流れ作業で殺し、死体処理をしていく描写がある。特筆すべきは監視するナチもまたうんざりしながら仕事しているのだ。所長のムスフェルド(ハーヴェイ・カイテル)はドイツが負けて自分が戦争犯罪者として処刑されることが分かった上でホロコーストを続けるのだ。仕事を続けるために!信念ではなく、今死にたくないからユダヤ人を殺すという諦観。


実は同じことがゾンダーコマンドにも当てはまる。彼らも16週の処刑猶予と引き換えに同胞の生命を売ったのだ。「生きるためには同胞も殺すのさ」とつぶやきながら。ムスフェルド所長と同じなのか?そうではない。


彼らは絶対に失敗するであろう暴動を実行する。目的はアウシュヴィッツの焼却炉の爆破。どうせ死ぬなら、一矢報いたいのだ。


生きるために同胞を殺して生きてきた連中が、同胞を殺すための焼却炉を破壊するために生命をかける。

この矛盾した行為が本作にかすかにみえる希望だ。全てが終わり、処刑される寸前のゾンダーコマンド達の台詞に泣く。


ゾンダーコマンドを主人公にした「サウルの息子」が公開されているが予習として本作も観るべき。



後、書き忘れ。


収容所の地下入り口に静かに並ぶユダヤ人の大行列。これから処刑されることは全員理解している。そのそばでユダヤ人の囚人楽団が演奏をする。カメラは引いて収容所の煙突が映る。そこから煙が(何の煙か分かるでしょ)!これをワンカット!本作のテーマを最もよく現したカット。ここが一番やりたかった所に違いない。


原題は「The Grey Zone」だが、邦題「灰の記憶」の方がいい。理由はラストで分かる。なるほど灰の記憶と言うしかない。
せんきち

せんきち