1944年、アウシュヴィッツ強制収容所。
ゾンダーコマンドとして働く男たちと、ガス室から奇跡的に生き残ったひとりの少女の物語。
原作は劇中にも登場するユダヤ人医師、ミクロシュ・二スリの手記である。
「サウルの息子」でゾンダーコマンドを知り、同じくゾンダーコマンドを描いたこの映画の存在を知った。
ゾンダーコマンドとは、強制収容所で同胞たちをガス室に送り、死体処理をしていたユダヤ人たちだ。
彼らがその仕事と引き換えに得ていたのは、食事とたった4か月ほどの延命だった。
特別待遇ではあるが、待っているのは他の者達と同じ「死」だ。
4か月経てば、新しく来たゾンダーコマンドたちによって処理されるのだ。
それでも彼らは、いちばん憎い相手に忠誠を誓い、いちばん大事な人たちを裏切り続ける。
そこにはどんな思いがあったのだろう。
彼らは最後の抵抗として、死体焼却炉の爆破を企てる。
どうせ死ぬのだという諦め、もしかしたら生き残れるかもしれないというほんの少しの希望、そして、生き残っても家族に合わせる顔がないという罪悪感が入り乱れる。
そんな中でひとりのゾンダーコマンドが、ガス室に送られながら一命を取り留めた少女を見つける。
そして少女を生かそうと必死になる。
少女にわずかな希望を託し、自分たちの罪の償いを託す。
そうすることで自分は悪魔ではなく人間なのだと、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
二スリ医師は収容所で人体実験に加担したことで、収容所から生還した。
彼が同胞を裏切り続けなければ、この物語が世界に知れ渡ることは無かったのだ。
そんな二スリ医師は、1956年に55歳で亡くなっている。
その死因は老衰だそうだ。
この事実だけでも、彼がその後どんな苦しみを抱えながら生きていたのかがわかる気がする。
生還者の貴重な証言を元に、細部までリアリティこだわり作られたこの作品は、とても意義のあるものだと思う。
その一方で物語の軸が無く、何をいちばん伝えたいのかがぼんやりしてしまっている。
そして、ここまでリアリティにこだわりながら、英語で作られていることが非常に残念。