R

灰の記憶のRのレビュー・感想・評価

灰の記憶(2001年製作の映画)
4.8
第二次世界大戦中アウシュッヴィッツなどの強制収容所は、秘密裏に虐殺工場として機能し、ユダヤ人全滅作戦が決行されていた。収容されたユダヤ人の中にはゾンダーコマンドという特殊部隊があり、彼らは自分と同じユダヤ人たちに呼びかける。これから皆さんシャワーを浴びます、シラミがいては困るのでね、シャワー室から出てきたときに自分のモノがすぐ分かるよう、服をかけるホックの番号札を覚えておいてくれ、と。そう安心させてガス室に送り込み、事後、おびただしい数の死体を焼却し、処分する。その代わりに、4ヶ月、命の猶予を与えられ、その間ユダヤ人としては特権的といえる生活を送ることができる。彼らは、直接的に同胞の命を奪っているわけではないから、と自分を納得させて作業を行なっているのだが、ある日、ガス室の死体の中にひとり、生き残っている少女を発見する。せめてこの子だけでも、と、かくまって治療し、できればここから逃してやりたいと思うのだが… 。と同時に、彼らは軍備工場の女たちに、火薬をくすね取って運んでもらい、焼却炉を爆破する計画を立てている。ところが、蜂起の決行をどういう形で行うかで口論している最中、ドイツ兵に火薬運搬がバレてしまい、関わっていた女3人が拷問を受け始める。という流れで、最初から最後まで、こんなヘビーで鬱な映画は他にない!と言い切れるくらい凄まじいシーンの連続。シャワー室前の脱衣時、呼びかけにしつこく歯向かってくるユダヤ人の男、そいつをボッコボコに殴り殺すゾンダーコマンド、ぎゃーーーーーーーー!!! ああああーーーーーーーー!!!ぎゃーーーーーーーーー!!!と目を剥いて絶叫し続ける男の妻…うわああ、と思ってると…さらなる悲劇が……全身鳥肌…このシーンはすごすぎて何度も早戻しして見入ってしまった。それ以降も、ガス室の阿鼻叫喚、処理後のガス室内の惨状、火薬運搬した女たちへの凄惨極まりない拷問、彼女たちの最期の選択、そして言葉を失い脱力するしかないラストシーン…と、次から次に何もかもひどすぎて目が離せない。ここまで行くと感情マヒして、次は何が起こるんだ?と期待してしまってないかい?と思わず自分に問いかける。究極の地獄のなかでユダヤ人たちは、近々自分は確実に殺されるという前提でしこしこ生きてて、いやーもう意味わからん、ドイツ人に関しても何が何だか分からない、どーなってんの? どうやったら人間ここまでなれる? 見てるこっちがおかしくなりそう。音楽のないなかごおおおおおおおと鳴り響いている低音がさらに神経を逆なでる。これはマジでとんでもない。サウルの息子が好きな人は是非とも見るべきですし、サウル内容はいいと思うがクセ強すぎたな、と感じる人はこっちはストライクなはず。ただ、見てて結構気になるのは、全員が英語を喋ってるってこと。ひとつの言語の代わりならよくあることやからいいとしても、ハンガリー語も英語、ポーランド語も英語、唯一ドイツ訛りの英語話すドイツ人は、他の言語の代わりに使われてる英語は理解できてない、みたいなシーンがあって、いやいや、それはさすがにおかし過ぎるわ!!!ってなった笑 あと、このシビアな内容とこのリアルさで、ハーベイカイテルやスティーブブシェミなどの大物俳優が出ると、かなり浮いて見え、若干違和感。けど、そんなことはもーいいや、ってなるくらい衝撃が強まっていくので、映画としての激しさと意義の方を推したいと思います。最後はうめき声出るくらい胸が引き裂かれた。あんな悲痛極まりないByeは今まで聞いたことがないし、二度と聞くことはないだろう。そしてそのあとのアレも。こんなに意味の深い人間の生命を、大事な大事な生活を、未来を、こんなに無意味に、無残に、消してしまえる人間の魔性に、絶望に、ただただ圧倒された。これはドイツ人とユダヤ人だから起きたというものでは決してない。虐殺は人類の歴史に遍在してる。ただ規模が驚異的に大きかった、というだけだ。そして今後またこれが繰り返されない保証なんて全然ない。だからぼくたち人類は、何がどうあれ絶対に貫かなければならぬ平和のための根本思想を確立し、一人ひとりの心の中でそれを培っていかなければならない、心の中に平和のとりでを築かなければならない。人間の生命の尊厳だけは絶対に冒してはならないし、常にあらゆる呪縛からの自由と自立を目指さねばならない、ということを強調しながら、スマホを置きたいと思います。もう寝ます。おやすみ。
R

R