冷蔵庫とプリンター

拳闘のキャグネイの冷蔵庫とプリンターのレビュー・感想・評価

拳闘のキャグネイ(1932年製作の映画)
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 人を殴らずにはいられないという稀有なスターペルソナを持つジェームズ・キャグニー(今作では「キャグネイ」)が、人を殴るプロを演じるというので期待して見たわけだが、残念ながらあまり面白くない。
 ボクサーなのに鼻を美容整形してモテようとしたり、ブロンド美女を追っかけるためにタイトルマッチを早めに切り上げようとしたり、まるで殴るのも殴られるのも懲り懲りだという様相を呈している矛盾は面白くもある。
 懇意になったブロンド美女に「鼻と耳がよければ完璧なのに」と言われて、鼻と耳を整形したところ、かえって失恋を加速させてしまうというシークエンスは、ラカン派精神分析で言うところの「対象a」の作用を表しているのが印象に残った。すなわち、歪な鼻と耳という「欠点」が「完全性」への欲望を喚起させるのであって、美容整形で手に入れた完璧な鼻と耳は、単に平凡なだけでいかなる欲望をも喚起しないということ(だいぶ雑な説明だけど)。
 思わぬところで「対象a」の好例を見つけたのは僥倖だが、パンチが持ち味のキャグニーが全然パンチしないし、高飛車なブロンドに振られて献身的なブルネットのもとに爆速で舞い戻る"パンチライン"もイマイチ。駄作としか言いようがない。
 キャグニーがもっと人を殴っていれば完璧な映画なのに。。