こつぶライダー

メメントのこつぶライダーのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
4.0
時の魔術師、監督クリストファー・ノーランを世に知らしめることとなった衝撃のハリウッドデビュー作。

記憶が長続きしない主人公レナードが事件を追っていく物語。本来の出来事とは逆の順に進むことによって、主人公と同じ視点で楽しめる。
後のノーラン作品に通じる"時間"を扱った作品でもある。

低予算ということもあってか、今でこそ当たり前となったド派手なアクションシーンこそ無いものの、練り込まれたストーリー設定とあっと驚く展開によって、観客の脳内に疑問を生み出していく巧みさはこの頃から変わらない。

その後も度々扱うテーマである"時間"について、ノーランは今作で既に答えを出しているのに今回気がついた。

私としては、映画の始まりが物語のオチであったことから、こんなことを考えた。

「"時間"というものは常に流れているもので、未来や過去と語られるものは全て今に置き換えることが出来る」

即ち、レナードにとって見れば、何者かに妻を襲われたあの事件までは過去なのだが、それ以降の記憶は忘れてしまうため、今が全てなのである。
今いる地点が未来でもあり、過去でもある。

映画の中では、逆行する物語と、通常の時系列で描かれる回想シーン(白黒)とが並行して描かれるが、これはあくまでも私たち観客が分かりやすく楽しむための工夫である。
が、この比較があることによって、実は未来とか過去とかってものは、自分の記憶が作り出した産物に過ぎず、かなり曖昧なものなんじゃないかという、私なりの考えが生まれたのだった。

レナードが記憶を忘れることとなったのは、妻を襲われた事件の衝撃が強かったことと、彼女を殺したのが自分だと認識したくない罪悪感からではないか。
サミーの物語に紐付けながら事件を解決していこうとする様は、自分なりのルールを設けながら正義にひた走るヒーロー像。
しかし、真実は"彼自身が創り出した妄想の犯人を追っている"だけに過ぎない。
自己防衛ってやつ。
復讐に生きる意味を見出したのだ。

ただ、私の中での作品の真実はこうだ。

"彼は精神病院に入院していて、脳内で創られた物語でしかない"ということ。
そう、彼はサミーのように施設に入れられてしまっているのではないか?と。
そもそもテディもいなければ、ナタリーもドッドもジミーもいかい。彼が頭の中でデザインした物語。

だから、多分これっていつまでも続く物語だし、本物のレナードが救われることはないんじゃないかと。
この辺り、後々の『インセプション』に通じるものがあるよね。時間の逆行については『TENET/テネット』で描いており、もう既にこの時にノーランが答えを出していたとなると、物凄く驚きでしかない。
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