ryosuke

メメントのryosukeのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
3.7
 このテクニカルな構成をどう評価するかが全ての映画だが、個人的には、どうも映画の生理に反しているように思え、『フォロウィング』に引き続き、初期ノーランは肌に合わないことを確認した。メインのカラーパートのシーンを逆順に並べるというアイデアについては、音と映像で時空間の連続性を紡ぎながらリズムを生み出していくという映画の基本原則にそぐわず、物語のドライブ感を減じているように思う。
 当然、釈然としないままに観客を放置する時間も通常の構成より長くなるわけだが、観客に作品の時間の流れを強要する映画というメディアでこれをすることは適切なのだろうか。クライマックスで言葉で一気に説明せざるを得ない部分も出てくるし......。まあこれが『フォロウィング』に始まり『テネット』まで続いているノーランの一つの妄執なのだろう。
 『フォロウィング』はロジックのみが存在し、印象に残るカットが皆無であったことも不満であったのだが、本作も基本的にそれは変わりがない。もっとも、侵入者に勢いよく殴り倒された主人公が、半透明の膜に包まれた死にゆく(とその時点では思われた)妻と互い違いの形になる俯瞰ショットは良いキメのカットだった。
 まあ好みではないし、全容も理解できていないのだが、ナタリーが主人公を挑発して手を出させるとき、予感されていた企みが起動した瞬間などやはり面白いし、この過剰な陰謀と自己欺瞞の物語は非凡なものだとは思う。ラストシーンでカッと目を開け「開き直ってしまう」主人公の突き抜け方もどこか空恐ろしいものがある。映画の終着点において、その主人公が、これまで上映してきた物語世界の創造主に成り変わってしまうのだから。
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