Hiroki

メメントのHirokiのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
4.0
第96回オスカーが終了しました。
今年も相変わらず色々な問題が起きたなー。
昨年は一昨年のウィル・スミス問題からのカウンターで異常に連帯を押した授賞式でしたが...
まー今年こそがTHE・アカデミー賞という感じ。
まずアカデミー賞の話からなんですが、本当にかなり長くなってしまったので興味ない人は飛ばしてください。
「それではここから〜」から本作のレビュー始まります。
では最初にアワードから。

授賞式前の予想通り『オッペンハイマー』が作品/監督/主演男優/助演男優/撮影/編集/作曲の主要4部門を含む7部門受賞でやはり強かった!
そしてレビューで「もしかしたら無冠?」と書いた『哀れなるものたち』が主演女優と美術/衣装デザイン/メイク&ヘアの4部門受賞とこちらも強さをみせた。
助演女優賞はほぼ1強だった『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。
混戦が予想された脚本賞は『落下の解剖学』のジュスティーヌ・トリエ&アルチュール・アラリ、脚色賞は『アメリカン・フィクション』がそれぞれ受賞。
短編実写映画賞は初めてのオスカー獲得となるウェス・アンダーソン『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』。あのオスカーから嫌われていたウェス・アンダーソンがついに。
日本作品では視覚効果賞を『ゴジラ-1.0』が、長編アニメーション映画を『君たちはどう生きるか』が受賞。素晴らしい!

今回の授賞式ではユダヤ系が仕切るアカデミー賞の中でどれだけガザ停戦を表明する人が現れるかという事がかなり話題になっていた。(メリッサ・バレラがパレスチナ擁護・反イスラエルをSNS投稿した事で『スクリーム』の続編から解雇されてからハリウッドでこの問題は非常にセンシティブ。)
当然というかアウシュヴィッツを描いて国際長編/音響の2部門受賞の『関心領域』ジョナサン・グレイザーは壇上スピーチで言及、他にもガザ停戦を支持するレッドピン(バッジ)はマーク・ラファロ、マハーシャラ・アリ、リズ・アーメッド、ラミー・ユセフ、ビリー・アイリッシュ、スワン・アルノー& ミロ・マシャド・グラネール(パレスチナのピン)などが付けていた。
興味深いのは『関心領域』『落下の解剖学』『哀れなるものたち』のヨーロッパ映画やヨーロッパ出身、ヨーロッパを主戦場にする人が多い。
即時停戦を求める“Artists4Ceasefire”という運動には署名していたブラッドリー・クーパーやアメリカ・フェレーラも停戦ピンは付けていなかった。やはりアメリカを主戦場にするハリウッドスターのおかれた立場の危うさが見え隠れした。(当然ドレスの女性はピンを付けにくいという理由などもある。)

最も心を揺さぶられたスピーチは『実録 マリウポリの20日間』で長編ドキュメンタリーを受賞したムスティフラス・チェルノフ。
「これはウクライナ史上初のオスカー。光栄だけど私はこの舞台に上がって“この映画を作らなけば良かった”という初めての映画人だと思う。ロシアが侵攻してこなければ良かったから。」
ガザ地区の悲惨な戦闘で風化されてしまいそうですがロシアがウクライナに侵攻して2年以上。まだウクライナでも戦争は続いている。
『実録 マリウポリの20日間』はシンカ配給で劇場公開が決定したのでまだの方はぜひ。

最も話題(問題?)になったのはロバート・ダウニー・Jr(RDJ)/エマ・ストーン/マーゴット・ロビーの態度。
ただし私が見た限りではマーゴット・ロビーが『関心領域』のジョナサン・グレイザーに起立&拍手をしていなかったというのは配信されていた映像では確認できなかった。
エマ・ストーンのアジア系軽視は問題になった昨年受賞者のミシェル・ヨーがSNSで「自分が考えた演出だった」と火消し。本人が言っているので他人が口を出す事ではない。(おそらく止めに入っていたサリー・フィールドがなんか可哀想だった。さすが人権派女優。)
RDJのアジア系軽視はちょっと火消しは難しいかなと。そんな事するつもりがあるか知らないけど。
ただアジア系にというより特権階級からみた一般人の扱いという感じがして、同じアジア系でもキアヌにその扱いするかというと...もちろん私たちが日々欧米で感じるマイクロアグレッションこそがここに繋がっているのだけど。(ただ個人的に思うのは観光客には優しい人が多い。お金を使ってくれるから。ただそれは生活し始めると一気に変わる。自分たちの領域を侵される可能性があると判断すると変わるイメージ。)
本当に悪気があるわけではなくて見えていない。特にあーいった咄嗟の判断が求められる場合には。“リアル”トニー・スタークかよ。
ちなみにこれらは特にアメリカのメディアが取り上げたり、問題にしているわけではない。
ウィル・スミスのビンタとは違って何も証拠があるわけではないので仕方ないといえばそれまでだが...

個人的にもっと問題になると感じたのが『オッペンハイマー』のプロデューサーであるチャールズ・ローヴェンのスピーチだった。
まさかのジェームズ・ウッズに賛辞を表明した。
ジェームズ・ウッズと言えば名優であると同時にガザ地区の紛争に関してイスラエル側全面支持で「No ceasefire. No compromise. No forgiveness.#KillThemAll」(停戦するな。妥協するな。許すな。#皆殺しにしろ)というSNS投稿をするなど過激な人物として有名。彼は『オッペンハイマー』の製作総指揮の1人なのでまー賛辞を送るのは当然といえば当然なのだが...
でもこの事が特に問題にならないくらいアカデミーやハリウッドがユダヤ(イスラエル)にドップリ浸かっているという事を物語っている気がする。

あと地味に帰国後会見での山崎貴の「こっちかよ」発言も炎上してますよね。
これはアーノルド・シュワルツネッガー&ダニー・デヴィートという『ツインズ』コンビが視覚効果のプレゼンターでダニー・デヴィートからオスカー像を受け取った感想として出た発言。シュワちゃんから受け取りたかったと。
シュワちゃんから受け取りたかったのは良いけど公で言うかね。しかも「こっち」って。
授賞式でのダニー・デヴィートのマイケル・キートンを指さして「バットマンがいるぞー!」の件とか見てたわけじゃないですか。(シュワちゃんもダニー・デヴィートも別々の映画だがバットマンにやられるヴィラン役だった。)映画ファンにとっては激アツ展開なわけで。
それを見てての発言とは思えない。もしウケを狙ったのだとしたらあまりにも幼稚すぎる。
せっかくの賞に傷をつけてしまった...

衣装・デザインのプレゼンターであるジョン・シナが全裸に大事な部分をスケッチブックで隠して出てくる演出(業界の賃金格差を埋める活動のキャッチフレーズに由来)とか、歌曲賞『I'm Just KEN』をライアン・ゴズリングが圧巻のライブパフォーマンスとか、主演男優賞のキリアン・マーフィーがしっかり原爆に対して言及したり良い所もたくさんあった。
個人的にはクリヘム&アニャ・テイラー=ジョイがプレゼンターで受賞の名前が呼ばれたのに誰1人会場にいなくて変な空気になった『君たちはどう生きるか』もジブリっぽくて良かった!というかジブリ前回も出席してないしね。
しかし全体としては現代社会と呼応するように問題が頻出した2024年のオスカーでした。
書いてたらどんどん長くなってしまって流石に反省...



それではここから本作の内容を。かなりの文量になったので簡潔に。(本末転倒過ぎる...)
これは私が初めて観たノーラン作品。
その時はもちろん劇場ではないのだけど「なんて凄い映画を撮るんだ」って感動した記憶がある。
元々は弟にして右腕のジョナサン・ノーランの短編小説(未出版)『Memento Mori』が原作。
原作では2つのタイムラインから構成されていた物語を、映画化に際して幾重にも重なる時間軸へと変化させた。
2つの時間軸だと平凡な映画になりそうな所を、いくつもの時間軸を重ねて、しかも結末から遡るという倒叙の形にした事で物語として非常に奥行きが出ている。
今観ると時間を逆行させるという『TENET』の原風景が既にここにあるような気がしてそれも楽しい。

ミステリーとしても興味深く、ブリッジ的に話が切り替わる時に挿入されているサミー(スティーヴン・トボロウスキー)の回想で一度だけ彼がレナード(ガイ・ピアース)に変わるシーンがある。
ここがラストの謎解きの伏線に。
もっと言えば左手の1番見えやすい位置にあるタトゥー。
「remember Sammy Jenkins」(サミーを覚えていろ)
ここに全ての答えがあった。
だってサミーはいなかったのだから。
いや彼が作り出したサミー・ジェンキンスという人物は存在しなかった。
ただこれさえもテディ(ジョー・パントリアーノ)が話している事で実際は本当なのかわからない。
ミステリーの常套句“信頼できない語り手”が上手く作用している。

まー結局はレナードの劇中のセリフの通り“記憶と記録”の物語なんですよね。
「記憶は記録ではない」
人間はなぜか記憶に頼りがちだけど、記憶が約10分しかもたないレナードには記録が大事。
ここらへんは記憶ですら改ざん可能である世界線の『攻殻機動隊』とかにも通じる。
ただ面白いのが今作では記録すらも改ざんされている(もしくは自分で改ざんしている)ので、もはや何が真実かわからない。
というより真実とは何か?
自分が信じるモノこそが真実なのではないか?
という所までしっかり帰結しているのが120分の映画として素晴らしい!

ただめちゃくちゃ難解ですよね。
時間逆行×信頼できない語り手という合わせ技でもはや1回で理解させる気ないだろうという...
あとこれは今作だけでなくノーラン作品に通じて言える事なんだけど、心があまり感じられないんですよね。
あるアメリカの批評家は「クリストファー・ノーランの映画には人間がいない」的な表現をしていましたが。
そしてそれこそが今までオスカーの主要部門を獲れなかった理由だと言われている。
例えばCGを極力使わないダイナミックな撮影、時間や空間を自在に操る脚本、編集/音楽/美術などディテールへの異常なこだわり。これらは他の追随を許さない。
しかし映画を観終わった後に何か心に残るかと言われると「難しかった」とか「もう一度観ないとわからない」みたいな事が真っ先に出てくる。
特に初期はこの傾向が強く今作も「最後びっくりした」とか「どーやって考えてるんだろう」みたいな感想が強い。

実は最新作の『オッペンハイマー』はついにノーランがこの壁を破って、新しいステージに突入していると昨年公開時から非常に話題になっていた。
だからこそのオスカー制覇なのだと。
いろいろ公開前に雑音が多くなってしまったけど純粋に楽しみたいなー。

ちなみに今作はノーランのオスカー受賞を受けて4/19より全国の劇場でリバイバル上映が決定したみたいなので気になる方は劇場へ。
あー長かった。

2024-10
Hiroki

Hiroki