もものけ

マシンガン・プリーチャーのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

マシンガン・プリーチャー(2011年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

トレーラーハウスに母親と妻と娘を残して収監されたサムは、出所後にはまた酒と麻薬に溺れた生活を始めてしまう。
神に目覚めた妻リンは、サムを教会へ誘い家族で洗礼を受け、新しい仕事を得ることができた。
しかし不況の中、職は長続きせずサムはまた無職になってしまうが、ペンシルベニアを襲ったハリケーンで建設の仕事にチャンスが巡り、人生を取り戻すことができた。
ある日、教会へアフリカから訪れた牧師の話を聞く機会があり、サムはアフリカで何か役に立つことが出来ないかと一人旅立つのだったが、そこは内戦の起きているスーダンで、神の抵抗軍が子供を攫っては兵士にしていた。
サムは、子供達の為に戦うことを決心する。





感想。
"人は得るもので生計を立て、与えるもので人生を築く"
まさにこの名言を体現した元麻薬密売人だった男の奇跡ともいえる人生を描いた実話ベースのドラマ。

アメリカで貧困から犯罪者になり、家族を持ちながら貧困から抜け出せなかった男が、あるキッカケで遠いアフリカの地で慈善活動をするという、一風変わったキリスト教啓蒙映画ではありますが、神の奇跡を全面に押し出すのではなく、信仰に目覚めた人間が弱い者達を救おうと立ち上がる痛快なドラマとなっているので、やたら押し付けがましい宗教色が見られなく、エンターテインメント作品としても良くできた名作です。

アメリカ人の視点からアフリカの内戦の惨たらしさを、ドギツい描写でありありと描いたこの作品は、ドラマ作品というよりは戦争ドラマ作品といってもよいほど。
アメリカ人の倫理観念が及ばないアフリカという土地は、教育がなされず土着信仰や迷信が蔓延る場所で、そこにはモラルなど存在せず狂気の沙汰として戦争が繰り広げられており、ショッキングな映像で観客へも訴えかけてきます。

サムの凄いところは、正義感に駆られていきなりアフリカを救おうとするのではなく、身近な自分の街に教会を建てて、過去の自分のような麻薬患者や娼婦などに陥った貧困者を救おうと活動を始めることです。
この辺がよくあるキリスト教啓蒙映画とは違ったプロセスで、信仰と偽善を履き違えた描写ではない描き方が感動させられました。
"健康な者へ医者がいるのだろうか"というイエス・キリストの聖書の言葉をうまく表現しております。

片手に聖書、片手にマシンガン。
綺麗事では片付けられない現状に立ち向かうサムを、相反する信仰と暴力を使ってスーダンの人々を助けたいと活動するプロセスが、ドラマとアクションという演出で見事にまとめ上げております。
そして危険な土地での活動で、家族と離れて暮らす夫へ、妻がしっかりと支えており、感動を揺さぶる演出などでドラマ性もうまいです。
涙を誘われるシーンばかりです。

さらにこれでもかというほど犠牲になる子供達が次々と描写され、心が抉られる思いで、なんともいえない気持ちになります。
アフリカの想像を遥かに超える次元の違いを、恐ろしい描写で生々しく描いており、立ち向かおうとする主人公の虚しさを通して、観客へ訴えかけながら、世界の無関心さを問いかけております。

ラストは変わらぬ現状と、成し遂げた訳でもなく未だに活動をするサムと家族のナレーションで締めくくります。
これがアフリカという未だに発展途上である見捨てられた土地の現実と言わんばかりです。

エンドロールではサム・チルダース本人の映像と共にドキュメンタリー映像が流れており、映画版よりもワイルドでバイカーという風貌でありながら、銃を片手に説教を行う牧師という実話に驚かされますが、サムの目元の優しさが印象的で、まさに偉業ともいえる活動に人生を捧げる殉教者のように見えました。

"正当化するために、あれこれ弁解はしない。
でも皆に問いたい、子供や兄弟のいる人たち全員に。
もし自分の家族が誘拐されたら、もしテロリストが現れて自分の家族をさらっていき、私が連れ戻すと約束したら、方法を問うだろうか"
サム・チルダースが語るラストシーンの言葉ですが、とても印象的で復讐に手段を問わないという考え方ではなく、理想主義に囚われるのではなく現実主義として、戦うことも必要であるという、経験から語られる想いが込められているように感じます。

このサム役を、荒々しさと優しさを兼ね備えた演技力で演じきったジェラルド・バトラーが、作品を大きく印象づける魅力でもあるのも見所です。

実話ベースに嘘っぽさがなく、ひたすらアフリカの窮状を訴えかけて関心を持たせる手法で描いた傑作ドラマ作品に、5点を付けさせていただきました!!

とても感動出来る作品であります。
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