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世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶のmuscleのレビュー・感想・評価

5.0
これはかなり素晴らしい。28000年前に描かれた人類最古の洞窟に関するずっとウンチクまみれのドキュメンタリー。度々出てくる専門家に対してヘルツォークが無茶苦茶いじわるに突っ込むのがたまらない。研究者が狩の道具の説明をしていたら本当にそんな槍でライオンとか狩れるの?とか、前職がサーカスの芸人だと知るやいなや洞窟発掘の説明よりも「サーカスで君は何をしていたの?」とかを聞くヘルツォーク。確かにサーカスで曲芸こなしてた人がふとした瞬間洞窟壁画に人生をbetしている。それはすごいことだ。狭い洞窟内でなぜかニヤニヤした表情でのそのそ動くヘルツォーク。見ているとこの冒険家としか言えない胡散臭い老人に愛らしさすら芽生えてくる。
最古の壁画を描いた人物は180センチで小指が少し曲がっているらしい。おそらく偏屈で変わり者だったのだろう。
3Dカメラでの撮影が許された時間はごく僅かで光源は電池式の手持ちのライト。しかしそのおかげでfixのはずのカメラで撮られ照らされた壁画の陰影がゆらゆらと揺れる。しかもそれは鍾乳洞の煌めきを帯びている。右目と左目の差は約6cm。わずか6cmできらめきのパーティクルが大きく違う。それが照明のライトによってチカチカしてなんだかとても神々しく3D映えする。
これをヘルツォークは「単なる2次元的な平面に描かれた絵を超えた白いスクリーンに描かれた影のダンスだ」と表現する。素晴らしい。

見ているだけで飽きないものだけれど、絵そのものを最後にじっくり映してくれるから発見も色々できて楽しい。馬の目は比較的細かく描かれているのにその他の動物の目がかなり簡素に描かれているなとか。アニメーションのような線のブレは本当に運動の表象なのだろうかとか。
ラストはフランス最大の原発と水槽の鏡面ショットで終わるっていう滋味。ヘルツォークはこれ一作で3D撮っていないし、どのくらいわかっていたかわからないけれど、ヴェンダースの3Dドキュメンタリーよりもよほどスマートにわかっている感があった。『pina』とほぼ同時期に公開されてヴェンダースvsヘルツォーク、3D対決!となったらしい。正直『pina』の百倍感動したが……


個人的に感動したのが、洞窟のある湖畔としか言いようがない湖の入り組んだ感じが、あの伝説的な3D撮影作品『大アマゾンの半魚人』の怪人ギルマンの潜んでいた湖の雰囲気を感じさせたこと。でもそれも理由を考えればわかるというか、立体感を強調する強めな仰角ショットを人や物以外で配置するとなるとそういうロケーションで3D映画が構築するのが都合いいのだろう。アーチのような、扉のような岩肌とゆらめく水面。ふれられることのできるシワのような表面なのだが、そこには深さ(depth)がある。私たちはそこを潜るように、潜るようにして、時間を超えた平面の旅に招かれる。
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