カラン

世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶のカランのレビュー・感想・評価

4.0
3万2千年前の壁画がフランスの峡谷で発見されたらしい。探検家たちが峡谷の岩壁にへばりついて探索し、岩石で入口が覆われて洞窟内部が完全に覆われているのを、たしか、わずかに漏れでる空気を察知して?見つけたようだ。壁画は凄いですよ。私はソシュール的な言語一元論者なのですが、ボノボの人間的性行為の映像と同じくらい、考え直さないといけないかもなと、強いインパクトを受けましたね。ものすごい上手で、まわりにホラアナグマの爪痕が刻まれているのも、悠久の彼方の表現である気がしましたね。

木だけの葡萄畑のような素朴で高さのない平面から、遠景を撮りながら峡谷に降りていくハレとケの対比による一連のショットは、リドリー・スコットの『プロメテウス』のオープニングの人類の起源にまつわるシーンよりも、私はずっとゾクゾクした。その後の映像は普通 (爆)。

この洞窟は、入口を覆っていた岩石によって密封されていたので、タイムカプセルのように太古の空気をそのまま封じており、時代の臭いまで残しているという。で、内部の空気を保存するために、入口は金庫のような重厚な鉄扉がつけられており、内部には鉄のレールのような足場が組まれているが、そこからはみ出すことは決して許されない。調査チームの吐く息のせいで内部にカビが生まれて、もはや立ち入りを全面的に禁じるということにもなってしまったようなロケーションでの撮影なのである。ヘルツォークも「狭すぎて撮影班が写り込んでしまう。」と漏らしており、ときどき登場することになる。内部には樹木の根からでる有毒な二酸化炭素が満ちている場所もあり、長期の撮影がそもそも可能でなかったようだ。

奥まったところの天井からつららのように垂れた岩に、野獣と人間の女がまぐわるような壁画が描かれていた。「それはこれ以上は撮影はできません、その岩に近づくための足場を周辺が脆いので作れないからです。」と言われるのだが、そこは『フィツカラルド』を撮ったヘルツォーク、カメラに長い柄をつけて撮影の許可をもぎ取る。たぶんしつこく撮らせろ撮らせろってせがんだのだと思う。

ヘルツォークは映画のためという名目であまりにも強引になり過ぎてる気がして、好きになれなかった。だって、撮影のためにアマゾンの山を裸にしちゃだめでしょう。アマゾンに西洋のオペラを鳴り響かせるって発想がそもそもただの西洋中心主義、植民地主義、なんと言おうと帝国主義でしょう。あんな映画を観て喜ぶなんてのは、為すところを知らざればなり、恥知らずにも暴力に加担しているようなもんでしょ! あの自分の夢とかいいながら乱痴気騒ぎを南米のジャングルで起こしたフィツカラルドという白人は、まったくもってヘルツォーク本人のことだろうって思ってた。だからヘルツォークはあまり好きじゃなかったし、許せないやつだなぐらいに思ってた。しかしこのドキュメントを観ていたら、少し好きになってきた(笑)

ドキュメントなんだけど、ツッコミが激しいのも、爽快。よく、そんなのは分かってるから、もっと深く探求しろっていう番組があるけど、これは違う。映像の素材が限られているからなのか、センターでもフィールドでも専門家に話を聞くのだが、学者があれこれ言うと、逆に喋れなくなるような返しをする。「この武器は、こうやって長い柄につけて投げることで、マンモスを倒したのだと思われます」って、アインシュタインのようなおじさんが得意げに古代の武器を投げてみせると、ヘルツォークは「それではマンモスは倒せないと思う」と言って学者を苦笑いさせる。発言からかなりの学識があるようで、顔も怖いから、学者たちは困っただろうな(笑) この人は本気なんだよ、映像に何かを残すこと以外に何も考えてないけど、そういう本気さは脚色とか演出とか撮影技術とかの前提なんだよね。

そのほか、人間の起源を巡って、与えられたものをそのまま受け止めずにさらに探求に向かう異色のドキュメント! ワニまで出てくるんだから!
カラン

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