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花籠の歌のIMAOのネタバレレビュー・内容・結末

花籠の歌(1937年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

戦前の東京・銀座。その片隅にあるトンカツ屋「港屋」。その店の森洋子(田中絹代)は、雑誌で取り上げられるほどの人気の看板娘。店には常連客が溢れ、その中には大学生の小野進(佐野周二)と堀田念海(笠智衆)もいる。そして中国人のコック李さん(徳大寺伸)などの人物が絡む恋の鞘当ての物語。

こういう特殊な人物も出なければ、特殊なシチュエーションでもない、一見何気ない話を上手くまとめたのは五所平之助。これは実はとてもテクニシャンでなければ出来ないことだと思う。だって、普通映画というのはかなり特殊な人物や、特殊なシチュエーションを描くことでそこに日常との落差を作る。エネルギーの法則と同じで落差がある方が、エネルギー(カタルシス)を生みやすい。でも、一見何もない「普通」の状況で物語を作るには、相当なテクニックが必要だと思う。でもそういうテクニックは一見目に見えにくい。こういう「透明な演出」に憧れちゃいます。
この映画の中で一番好きだったシーンは、結婚をどうするんだ?と父親に諭され、田中絹代はそれに答えず「私、今23才。あと4ヶ月で24才よ」と言いながら去ってゆくところ。父親の問いに直接答えないところが、とても良い。「説明」でなく「感じさせる」台詞と演出だ。
ちなみに田中絹代は娘設定だが、実年齢はこの時30歳。本当に可愛くて、こういうところが本物の女優って感じです。笠智衆も学生役で、最初ちょっとびっくりしてしまいます。この当時彼も32才前後だったので、相当若作りですが、寺の息子という設定でお経を読むシーンもあり、かなり様になっていました。あと中国人役の徳大寺伸も巧くて、ちょっと泣かされそうでした。
この映画のラスト、田中絹代に失恋したコックの李さんも辞めてしまい、店は閑散としているが、店主の敬造(河村黎吉)は前向きだ。「4年後にはすき焼きで儲けてるぞ!」と息巻くのですが、これが1940年に開催予定だった「東京オリンピック」を見越した台詞だったことを考えると、なかなか感慨深いラストですね。
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