ダイナ

天国と地獄のダイナのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.5
黒沢明のクライムサスペンス映画。あえて映画全編をモノクロ調に仕上げたことによる効果やタイトルが持つ意味が好きです。また昨今の映画界でもテーマとして挙げられることの多い社会の一側面がこの時代から描かれているのはとても興味深いものでした。(言い換えるとずっと解消されることのない問題でもある)

広い部屋に集まる警察と三船敏郎演じる権藤とその一派。前半は一室というワンシチュエーションで登場人物が多く歩き回るのに関わらず、犯人とのやり取りや推理開示、スピーディな展開ながら頭にスッと入ってくる脚本が素晴らしいです。一つの誘拐劇が会社の派閥争いに波及し子供の命と金やキャリアの話が遠回しに天秤にかけられる構図、社内上層部の思惑渦巻くこの状況は地獄のよう。誘拐劇からの世間の影響がどう靡くか描いている部分も好印象。警察の捜査会議による犯人の絞り方、各班から捜査状況を集め特定する一連の描写の緊迫感も良かったです。

誘拐に対する罪の軽さに一石投じようとした黒澤明。誘拐に関する脚色が大きく施された本作。法改正に繋がった辺り韓国のトガニ法のような「映画の持つ力」というものを感じさせられました。しかし本作に影響された犯罪の話もあるようで。この映画が無くても別の所から犯罪のトリガーが引かれたとは思いますが、社会にメスを入れたと同時に悪事の誘発もあったという本作の皮肉な背景に憤りを感じます。
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