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天国と地獄のCANACOのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.6
切れ者同士が頭脳で闘う推理物が好きなので、開始直後から仲代達矢演じる戸倉警部がキレキレで熱が上がった。加えて三船敏郎。ワンマンと道徳心を併せ持った奥行きのある人となりに惹きつけられた。
でも山崎努。冷徹で厭世的で嫉妬深く狡猾な性格と鬱屈とした若さが現れていて、とてもよい。ラストの演技が強烈に好きで、見返しながらご飯3杯、お酒10杯いけると思った夜。

本筋は、自社株を買い占め、経営の実権を握ろうと目論むシューズメーカー常務・権藤金吾に降りかかる災難の話。最後の一手を打つため私財を投げ打って5000万円を調達したタイミングで、誘拐犯から「息子を誘拐した、身代金3000万円を明日中に用意しろ」と電話が入る。
と思いきや、すぐさま当の息子が帰ってくる。安堵と不思議な気持ちを抱くも、やがて犯人も含め、間違えて運転手の息子を誘拐していることに気付く。犯人は動揺するどころか、人を間違えたが、それでもお前が金を払えと要求する。
権藤は会社と地位を捨てるか、運転手の子どもの命を捨てるかの二者択一を求められる。そこから始まる権藤の人生と警察の威信をかけた犯人逮捕劇。

いきなり二転する秀逸な原作がありながらも、踏襲しているのは上記までで、身代金受け渡し方法含めて以降のプロットは脚色。原作なしでこのトリック等々を思いついた脚本チームは凄い。

『真実の行方』のような絶望感はなく、『セブン』のような悲しみもない。推理物として完成度が高く、信念を持った人間のたくましさも滲ませる。黒澤明監督のヒューマニズムで人間界の天国と地獄を貫いた作品だった。

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□メモ
1963年公開の黒澤明監督作品。脚本は小国秀雄、菊島隆三、久坂栄二郎、黒澤の共作。原作はエド・マクベインの『キングの身代金』。
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