Kuuta

天国と地獄のKuutaのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.1
身代金を要求され、犯人に一方的に弄ばれる前半は、靴メーカー常務(三船敏郎)の葛藤に集中する。室内の会話劇で登場人物が少ないにも関わらず、セリフに連動する体や目線、移動するカメラが、変化する人物の立場や心境を描き、画面が動き続ける。窓ガラスに町の風景がずっと映っているのも良い。

後半は犯人(山崎努)がどこにいるのか、撮影はロケが増え、文字通り社会の中を警部(仲代達矢)が動き回って探す。「ここからだと江ノ島が見えない」など、ロケーションをうまく使っている。「ここだ!」とわかる煙のシーンは、街の全景を見下ろすあの家の視点だからこそインパクトがある。

言葉に体が連動する演出は変わらず、かつ画面内の人数が増えるので、捜査会議なんかはそれぞれが結果を報告しているだけで最高に面白い。次第に物語は、声に反応がない(なかなか止まらないタクシー)、誰にも見向きもされない「地獄」へ近づいていく。天国と考えられる作中で一番高い位置にある「家の2階」は一度も描かれない。

抽象性の高い高台の家、平地の住宅街、その下にある「三層目」というパラサイトのような構図。天国(静)と地獄(動)。上下の目線がつながるのは、ラストシーンに至るまで、新幹線が橋を渡りながらカバンを落とすあの瞬間だけ。室内劇で生かせなかった横長のシネスコの力を開始1時間で遂に爆発させる。一発勝負の撮影という現実の緊張感も重なって、素晴らしいシーンになっている。犯人が画面に映り込んでくる緊張感、ボケた映像は犯罪ドキュメンタリーを見ている感覚だった。
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