Yuichi

天国と地獄のYuichiのネタバレレビュー・内容・結末

天国と地獄(1963年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

黒澤明の現代物もまた面白い。

赤い煙が出てくるパートカラーのシーンが、踊る大捜査線の映画でオマージュされていたのと、踊る大捜査線はそれがきっかけで逮捕につながるので、本家もそうなのかと思っていたら,大きいヒントという程度で、まだ奥があったことに驚いた。映像の大仕掛けがオチじゃないんだ。

冒頭のキャラクター設定と葛藤の作り方がめちゃくちゃうまく、この導入のうまさこそが、ドラマの肝だと実感させられる。

ナショナルシューズの経営方針について意見がわれ、役員の1人の主人公が、社長にも重役チームとも喧嘩をするところから、映画は始まる。そして、この喧嘩に勝つためには、全財産の五千万円が必要なことが分かった直後に、息子が誘拐され、身代金三千万円を要求される。

喧嘩に勝たなければ仕事を失い、身代金を払わなければ息子を失う。どちらを選んでも地獄の状況を突きつけられる。
そこにツイストをかけるのがまたうまい。誘拐された少年は自分の息子ではなく、運転手の息子であることが判明。

そこで、部下の息子を見殺しにして仕事を成功させるのか、部下のために仕事を失うのか。
次々と異なる価値観が試されていく。

結局、身代金は払い、少年を救ってからは、警察パートが始まる。

そこでは、死に物狂いで犯人を追いかける警察たちが描かれる。

最後には逮捕されて死刑を宣告された犯人と役員が面会をするところで映画は終わる。

ボロアパートから、役員の丘の上に立つ豪邸を眺め続けて、憎しみを募らせた犯人と、仕事も、家も失ってしまった役員が対峙する。

犯人は悔やんで死ぬわけではないと自分の死に様を見せつけようとするが、最後には感情の昂り、悲しみ、苦しみを抑えきれなくなる。

この面会のシーンで何よりも気になるのが、お互いの顔がガラスに反射して、二重うつしになるところ。犯人の顔には、役員の顔をが重なり、役員の顔には、犯人の顔が重なる。

まるで2人は同じ人間の違う側面を映しているかのように。

そして、天国と地獄というタイトル。この映画のどこに天国の要素があるのか。そんな簡単な二分法でもない気がするのだが、まだ結論は出てこない。
Yuichi

Yuichi