ShigeakiMiyano

天国と地獄のShigeakiMiyanoのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.0
立て続けに時代劇を撮った黒澤明が
気分転換も兼ねて現代の犯罪劇を所望し
白羽の矢を立てたのがE・マクベインの
人気シリーズ「87分署」の中でも傑作と
言われていた「キングの身代金」でした

“ 徹底的に細部にまでこだわりたい ”
普段でさえ完璧主義者の黒澤監督が
そう言ってメガホンをとった今作は
彼の多くの分身の中でも出色の出来栄えで
大ヒットとなるはずでしたが…
公開直後からまるで模倣するかのように
誘拐事件が多発、特に「吉展ちゃん誘拐
殺人事件」がセンセーショナルに
報じられた影響か?上映打ち切りという
ハプニングに見舞われてしまいます

大手靴メーカーの常務を務める権藤は
社内の権力争いの真っ只中にいた
不利な状況だが密かに株を買い集めて
逆転を狙っていた
そんな折、彼の元に「息子を誘拐した」と
身代金を要求する脅迫電話がかかってくる
…が、しかし当の息子は家にいた?!
なんと誘拐犯は間違えて住み込みの運転手
の息子を拐っていたのです
それでも狡猾な誘拐犯は権藤に身代金を
要求してくるのです

ほぼ前半は小高い丘の上に建つ権藤の
邸宅のリビングルームで展開していきます
それはまるで「舞台演劇」かのようで
名優たちによる演技合戦が見せ場です
権藤を演じるのは三船敏郎、事件担当の
刑事役に仲代達也の黄金トリオに加えて
“ 黒澤組 ” の主だった顔ぶれが総出演です

会社での生き残りを賭けて集めた資金
翌日に株を購入すれば勝てるのだが
幼い命を見捨てることになる
身代金に使ってしまえば今の地位を追われ
会社には残れない
苦しい選択を迫られる権藤の葛藤を
三船は見事に演じきってみせてます
身代金を入れるカバンに自ら細工を施す
権藤の悲哀に満ちた姿は印象深いです

そして特急列車で繰り広げられる身代金の
受け渡しの場面はこれまでとは一変し
スピード感と緊迫感に満ちて圧倒的です
疾走する特急の車内でどうやって身代金を
奪うのか? 犯人の用意周到で抜け目ない
姿が垣間見ることが出来ます

後半はサスペンス色が一気に高まり
仲代達也が演じる戸倉警部率いる警察が
誘拐犯を追い詰める緊張感に溢れる展開が
続いて行きます
地道な捜査の過程で描かれる当時の下町の
様子が圧倒的です
その中で蠢く人々のエネルギーまでもが
スクリーンを通して伝わって来そうです

デビュー3年目だった山崎努さんが
誘拐犯役に大抜擢され期待以上の好演!
三船、仲代とも互角に渡り合ってます

モノクロの作品の中で一点だけ強烈な
インパクトでパートカラーのシーンは
劇場内で拍手が湧き起こったと伝説が
残るほどの名場面です。
ShigeakiMiyano

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