もりいゆうた

マッチスティック・メンのもりいゆうたのレビュー・感想・評価

マッチスティック・メン(2003年製作の映画)
4.5
これを見て、自分は「詐欺師ものであり、親子もの」が好きなんだと思った。

どんでん返し映画が大好きで、でもただのどんでん返しだけだと一回見たらもういいってなるけど、演出だけでなく、しっかり「人間」が描かれていたら(特に親子の絆とか)、もう一度見たくなる。

「ホームアローン」がかなり好きなんだけど、あれって笑えて泣ける。コメディであり、空き巣とのバトルがどうなるのかワクワクするサスペンス要素もあって、それでいて普遍的な家族愛みたいなものも描かれている。

あぁだから好きなんだって今気づいた。このへんの要素が全部入ってる映画が好き。そういう映画を探してます、教えてください笑

あと「カラスの親指」がすごく好き。「実は親子でした」ってオチと、「実は親子じゃなかった」っていうオチの違いで、軍配は「カラスの親指」に。「マッチスティックメン」はハッピーエンドではあるけど、実は親子じゃなかったは切ないよ~

最後に二人が再会した別れ際に「また会いに来ていい……?」「あぁ、いつでもおいで、アンジェラ」みたいなセリフを入れてほしかったなー。関係性が救われる。あれ、無粋過ぎます?笑
(ただ、ひたすら娘が可愛い。本作は詐欺師版「LEON」なんて言われてるけど、娘役のナタリー・ポートマンよりアリソン・ローマンの方が個人的に好き)

フィルマークスで初めてコメント書いたけど、映画に限らずいい作品に触れると魂が震えて饒舌になる。個人的にすごく好きな作品で、Amazonレビュー☆3.6は納得がいかない。最低でも☆3.8以上の作品です、はい。もう一度見たい!




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僕はこの映画がとてもととても好きなのですが、Amazonの評価が☆3.6はほんと納得いかなくて、110件あるレビュー全部読み込んでみました。

すると評価が低い理由がわかったのでここからはその考察を。

先に考察で気づいた結論を言っておくと、映画を多くの人に届ける上で「文脈作り」がとても大事なんだと気づきました。(これは映画に限らずだけど)


Amazonレビューで評価が低い理由はいくつか挙げられていましたが、ざっくり一つに集約できます。

それは「どんでん返しが弱い」です。


「マッチスティックメン」には、

「その男、潔癖性の詐欺師」
「騙されるのは、あなた」
「絶対キレイに、だまされる」

などといったキャッチコピーがありました。

これからわかる通り、本作はいわゆるコンゲームというジャンルであり、当然、映画鑑賞前のお客さんは「絶対、騙されないでおこう」「オチはこうなるんじゃないだろうか」と構えてみることになります。

それゆえに、「どんでん返し」に対してハードルが上がり過ぎてしまい、「最後にもう一回ひっくり返してほしかった」という低評価がついてしまったのです。

どんでん返しを押しすぎているわりに、どんでん返しが弱かったと。


Amazonレビューには、度々、主人公が詐欺師の映画である「キャッチミーイフユーキャン」「スティング」「ペーパームーン」などが引き合いに出されており、「この3作の方が面白かった」「スティングくらい最後にもう一度ひっくり返してほしかった」などと言ったコメントがありました。

僕はそのとき全て見ていなかったので、すぐに3作とも見させてもらいました。「マッチスティックメン」がこんなに面白かったのだから、この3作どんだけ面白いんだと、絶対騙されるやんと。

実際に見た感想は「こんなもんか」でした。

さぞ面白いんだろうなと、どんでん返しを期待して見たら拍子抜けをしてしまいました。(もちろん3作ともすごく面白かったですし、前評判が無ければもっと楽しめたと思います)


このとき、映画公開前の押しポイント(文脈作り)は、多くの人に届ける上で気を付けなければならないことなんだと学びました。


ちなみに僕含め、高評価をつけている人は「マッチスティックメン」を「コンゲーム」というよりも「ヒューマンドラマ」として見ていた人で、"詐欺師のヒューマンドラマ"として見るとすごく面白かったんだと思います。

ただ、多くの人が、ヒューマンドラマとしてではなく、コンゲームとして見てしまい、途中でオチがわかってしまったと低評価をつけたのでした。


「前情報に何を出すか」
「どう期待値をコントロールするか」
「どう期待を裏切るか、またはどう期待を煽るか」

悪く言うと情報操作となるけど、作り手にとって、鑑賞前の「文脈作り」はとても大事なんだなと思いました。

作家の仕事は「書くことと売ること」なのです。


ちなみに映画ではなく本ですが、大ベストセラーとなった「君たちはどう生きるか」は「日本を代表する歴史的名著の初マンガ化」という文脈を考えたそうです。

「君たちはどう生きるか」に「歴史的名著」という言葉をつけたのはこの担当編集者が初だと言っていました。

「文脈作り」とはそういうこと。


例えば、大ヒットした「カメラを止めるな」の文脈とは何でしょうか?

おそらく「制作費にたった300万円しかかけていない映画」だと思います。

「300万円という低予算なのに面白い」という、「AなのにB」という「落差」が拡散の要因なのではないかと言われています。

もちろんこの映画の場合、意図して文脈を作ったというわけではないとは思いますが、「文脈作り」について今後あらためて考えていきたいと思いました。



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あとほんと余談だけど、どんでん返し映画として紹介されることの多い「ゴーン・ガール」も個人的にめちゃくちゃ面白かったと思うのですが、Amazonレビュー☆3.8とそこまででした。

その次に見た映画が「シックス・センス」で、☆4.3でした。

この評価の別れ目の一つが「読後感」だと思います。

「ゴーン・ガール」も☆4.3くらい面白いのに、ラストがいまいち後味が良くなかったから☆3.8まで落ちてる。

逆に「シックス・センス」は見た人はわかると思いますが、ラストが本当に綺麗に決まったから(個人的に序盤が微妙だったのに)、一気にがっと上がって☆4.3。

人は絶対的に判断したくても、相対的に判断してしまう生き物であり、最後の「読後感」で評価を決めがちなんだと感じました。

物作りをする上で「読後感と文脈作り」をあらためて気を付けようと、「マッチスティックメン」という素晴らしい映画から学べてとても満足でした。