佐藤克巳

二人の世界の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

二人の世界(1940年製作の映画)
5.0
島津保次郎監督が、松竹で名作「兄とその妹」を撮った翌年に東宝移籍後製作された一本で酷評を叩かれた作品だが、父工作機械工場研究室長丸山定夫が、若い技師藤田進等の突上げと専務汐見洋等上層部の圧力の狭間に立たされ苦悩、それを見兼ねた長女女学生原節子は、心を寄せる藤田と不仲になるが父退職を機に融和する一連の近代化社会が齎した矛盾を明らかにした濃密な家庭劇の傑作である。原の美しさは当然素晴らしいが、藤田の従妹若原春江のハイセンスさは桑野通子を彷彿とさせ、戦後の映画に遜色ない瑞々しい映像感覚を現出させた島津をもっと評価すべきだ。例えば「母の地図」のキャストを下記に記す。
母杉村春子、長男三津田健、その妻一の宮敦子、次男大日向傳、長女千葉早智子、その夫中村伸郎、次女花井蘭子、三女原節子、その恋人森雅之、他にも徳川無声、東山千栄子、丸山定夫、英百合子…続々の豪華さ。これ戦後の小津安二郎の世界だよ。
佐藤克巳

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