ミサホ

影武者のミサホのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
4.0
観終わるのに一週間掛かったけれど、やはり面白かった!二日で観終わる計算だったけれど、予定が狂って延び延びに。

それでもスケールの大きさと物語の面白さに引き込まれた。重い作品というと、内容のことを言うけれど、黒澤監督の本作や『乱』なんかは、カラーであることで画力が強いのと戦国時代という時代背景からも映像そのものが“重い”と感じる。

DVD自体も数㌘他のものより重いんじゃないかな…と思っちゃうくらい。

時は戦国。
武田信玄(仲代達矢)は家康の足軽が放った銃弾で深手を負った。そして命尽きる。信玄の遺言は三年間この死を伏せておけ、というもの。

信玄の影武者でもあった弟・信廉は、信玄の生前から使えそうな影武者を用意していた。磔の刑寸前だった盗人(仲代の二役)だ。

最下層でしかも罪人の男が、ある時、影武者として生きる羽目に……下手なことは出来ないのだ!調子に乗ってはいけないのだ!とりあえず三年間がんばろう!

そうして信廉の指導と監視の下、なんとか敵将である信長と家康の目を欺く。この互いを探る間者(スパイ)の動きなどもエキサイティングだった。互いの腹の探り合いも見どころのひとつだ。

そして、信玄と対峙する織田信長と徳川家康。信長を演じるのは隆大介。家康を演じるのが油井昌由樹だ。このキャスティングも魅力的。信長には若さと血気盛んな勢いが感じられ、家康には賢さに加え、落ち着きと上品さが感じられた。

戦国武将のことはよく知らないけれど、一時、本を買ったり、NHKの教育番組を観たりしていたことを思い出す。(続かなかったけど)またちょっと掘ってみようかなと本作を観て思った。

影武者が見る悪夢の描写は、飲み込まれて戻って来られないほどに幻想的で美しかった。この辺りに黒澤監督の無骨で迫力ある映像(男性的)と同時に隠せない美意識(女性的)を見た。

カラー作品はそういったアート的な美しさを直接感じられるよね。

身内をも欺いた影武者が城を去るシーン。なんとも言えない感情が渦巻いた。影武者は所詮、影武者であり、他人なのだ。雨の中、ボロ切れのような姿で去る。

重臣たちや竹丸との交流で、盗人でしかなかった男は、卑しい心を捨て、人間らしさを取り戻しただろうか。少なくない感謝の念を持っているようにも見えた。

そのあとの武田軍の負け戦…
風林火山はそうして散った。
それは皮肉を超えて哀れであった。信玄亡き後、影武者として役目を果たした男が見つめた光景は、呆気ない最後であった。
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