このレビューはネタバレを含みます
影武者、という設定がもはや秀逸。
(鉄砲伝来による戦法の世代交代を象徴する意味でも、武田信玄の死前後を状況として設定するのは見事だと思う。)
はりつけになる寸前で影武者にと拾われた男は、その後、本名を呼ばれることもなく、ただ影武者として、信玄の幻としてのみ生きる。
男は小盗人として地べたを這い生きているうちは全く無縁だった、いわば王としての暮らしを体験する。
足軽たちに石つぶてを投げられる場面があったが、当時の社会における男の扱いは、それが当然であったろう。
信玄の孫と心通わせ、追い出されるときに、最後にきちんと別れを告げたいと乞い願ったことが、この男がこれまで誰とも真に繋がることなく生きてきたことを物語る。
ラスト、一人槍を持ち織田の鉄砲隊に立ち向かっていく姿は、正に信玄その人であった。