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影武者のLEOのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
3.3
武田信玄の影武者として獄門寸前で救われた小泥棒。
武田家存続のために散々利用されるものの正体がバレた途端あっさり捨てられてしまうが、心は既に武田家の者となっており長篠の戦いで敗れた武田家と共に力尽きて死んでいく話。

外国版プロデューサーにフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスを迎え(というか、彼らの援助がなければ作品は作られなかった)、カンヌ映画祭パルムドールを受賞した1980年の作品。

本作を観て凄く感じたのは、黒澤監督はカラーを撮るようになって人よりも情景を撮るようになったのかなという事。
前作『デルス・ウザーラ』でもそう、その後の『乱』や『夢』もそう。
そこには『七人の侍』などの頃のような、画面から飛び散るような人間の感情や情熱などはなく、様式美のような人間の営みや流転、自然の風景が、一種記録映画のように映し出されている気がする。

言ってみればそれは絵画であり能のような…。
昨今、黒澤監督が生前に残した能の様式美を淡々と映し出す映画の企画書とパイロットフィルムが見つかったが、彼はこの頃から既に自分の作品で能を表現しようとしていたのかもしれない。

ストーリーは淡々として史実以上のものは特になく、最大の見せ場であるはずの長篠の戦いのシーンでは多くの馬を使い迫力はあったものの撃たれるシーンは見せずに撃たれた後の人馬が寝転んでるシーンのみ。
つまりそれまでの黒澤映画の売りであった、ストーリーテリングの面白さやアクションシーンのダイナミズムが全然弱いのだ。

画面が暗すぎてよく分からなかったり、セリフも聞きづらかったりで難儀する部分も多々あった。

「黒澤の名作は『赤ひげ』まで」と言われるように、この後どんどん衰退していくのを知っているだけに、この20年くらい前の脂の乗り切った時の黒澤監督が撮っていたらどうなっていたかを凄く知りたくなった作品だった。
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