Supernova

影武者のSupernovaのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
3.7
初カラー黒澤。
円熟した今までにない黒澤だった。

「人あればこその影」

この一言にこの映画の全てが集約されている。
影がなくても人は生きていける。信玄は影武者無くしてもその威光を遺憾無く発揮していたことだろう。
またこれはつまり信玄がいなければ臣下も存在しない。全てが信玄という絶対的強者の存在の上に成り立っている影に過ぎないということでもある。
盛者必衰の理。信玄なき武田家は滅びゆく定めだった。

コメディ?ドラマ?どこを見て欲しかったの?
いまいち焦点が定まりきってない印象を受けた。何もかもが中途半端。テーマ的にはかなり面白いところを突いていると思ったのになぁ。
例えば、人生の大半を下民として粗雑に扱われてきた自分(影武者)を守るために盾になって命を投げ打ったものたちに感化されて、散々ヘラヘラしてきた影武者に覚悟と責任感が芽生える。そういった描写から、武将が理由もなく金も土地も持っている訳ではなく、尋常ならざる精神力と、屍の上に築き上げた富と名声なのだと実感する。
他にも「人あればこその影」のシーンとか、いくつかかなり心に突き刺さるセリフがあったのに、勝頼の後ろ盾として出陣するシーンで謎にヘラヘラしてたり、そこでそんな間抜けな曲流すなよみたいなシーンで拍子抜けした音楽流したり、所々ズレを感じる。もっと脚本段階で推敲していれば超名作になり得たのに。

それはそうとして俺が観てきた黒澤作品の中で最も雰囲気とトーンが前面に押し出された作品だった。内容も今までと比較すると娯楽性は低い。厳粛なスペクタクル文学、に成りきれなかった映画。ひどく物静かでらしくない作品だった。ただ、この歳になってもロマンを追い求めて新境地へと駆り出す野心には敬服する。

けたたましい威圧感を放って突進する信玄軍。最後の20分の迫力は流石だった。
このシーンだけじゃなく全体を通してリドリーの『ナポレオン』を想起させる。

あの最初のシーンの強烈な印象。態度の悪い流れ者の下人ですら信玄の威光に気圧される。カリスマとはこのこと。それを演じた仲代達矢に盛大な拍手を送りたい。

映像は凄まじかったけど、内容が追いついてない。あと全体的に長い。特に最初の1時間。

総じて良い映画だけど、本当に勿体無い映画。代表作になり得るくらいのポテンシャルはあった。
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