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あの人はいまのodyssのレビュー・感想・評価

あの人はいま(1963年製作の映画)
3.5
【丹波哲郎の男っぽさ】

1963年に作られた女性映画。岩下志麻主演。
私は正直言って岩下志麻ってあんまり好きじゃないんですけど、この映画での彼女はデビューしてまだ3年目、22歳という年齢で初々しさもあり、まあ悪くはありません。

ヒロインは建築家の青年(園井啓介)と恋愛して結婚目前。実は彼には別に婚約者がいたのですが、ヒロインに夢中になった青年はそちらを破談にしてヒロインと結婚するつもりでいます。

ところが、ヒロインはたまたま名のある画家(山村聰)について絵を習っていたのですが、その先生宅に婚約の報告に行ったところ、迫られて関係を持ってしまいます。

当時は結婚するに際して女性は処女であることが重んじられた時代。処女を失ってしまったヒロインは理由を明言しないまま婚約者に別れを告げ、捨て鉢になって伊豆へ旅に出ます。

そこでヒロインは偶然、実業家の平間(丹波哲郎)と知り合います。彼は彼女の境遇を察して、とりあえず自分の妾として暮らすことを勧め、ヒロインもそれを了承します。

やがてヒロインは純情な青年から求婚され、最初は気が進まなかったものの、次第にその気になってくる。ところが、以前自分と婚約していた建築家がその後結婚したことは知っていたのですが、相手は以前に彼が婚約していた女性ではなく、ヒロインも知り合いである遊び人の女性であることを偶然知ってしまう。そして遊び人である妻と建築家の夫婦はうまく行っておらず、さらには妻が他の男と遊び歩いていて車で事故死してしまう。夫である建築家は、遊び人の妻のために会社のカネを使い込んでおり、そのため田舎に左遷されるということもヒロインは聞き知ります。そこでヒロインは・・・・

というようなお話なのですが、若いヒロインが婚約者、師である画家、自分の境遇を察して妾にしてくれる実業家、純情な青年などなどの間で揺れ動く、というところがミソなんでしょう。

この中では、実業家を演じる丹波哲郎の男っぽさが光っています。自殺を考えて伊豆に旅行したヒロインの心情を察して、敢えて妾として引き受けて面倒を見る。彼女に求婚者が現れてもいたずらに嫉妬したりはせず、あくまで彼女の意志を尊重する。ヒロインにとってはいささか「都合のいい男」ですけど、カネがあったら私もこういう格好いい真似をやってみたいなあ、と思わせる包容力ある男ぶりです。

そのほか、山村聰演じる著名な画家の芸術家ふうの身勝手さ、建築家の青年のきまじめさ、囲われものであるヒロインに求婚する青年(早川保)の純情ぶりなど、男たちの性格がそれぞれ適切に設定されており、こういう色々な男たちからヒロインが愛されるところが、本作が女性映画である所以なのだろうと思いました。

歌手の西田佐知子が本人役で出演、歌を披露しています。

なお、フィルムの状態が悪く、雨降りがかなり目立っていたのが残念。カラーの画面も赤っぽく変色していました。過去の秀作がすみやかに修復されることを望みます。
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