せいか

グロリアのせいかのレビュー・感想・評価

グロリア(1980年製作の映画)
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8/9、Amazon videoにて動画レンタル、字幕版で視聴。
『レオン』に先立つ、子供と大人のタッグの逃走劇。全体的にその逃走劇と少年と女が心を通わせ、女の強さを見せるところが売りの作品だとは思うけれど、話の進行などのシナリオ面は穴だらけに思うので、そこの格好良さには痺れるにしても、観ていてそれ以上のものはなかった。というか、ちょっと苛立ってくる。


ある一家の父親がマフィアの資金繰り情報をこっそりCIAだとかに流していたことがこの父親自身の失態によってマフィア側に露見し、報復と見せしめのために一家は殺されるも、奇しくも息子だけはなんとか同じフロアで一人暮らしして母親と親しくしていた女グロリアに預けられる形で逃れられ、二人で逃走劇を始める話。
取り立てて少年に思い入れがあるわけでもない彼女が義理も何も無い約束を果たすうちに少年を逃がすことに本気になっていくというか、最初の時点から自分の身の破滅を招くのは分かってるだろうに何だかんだちゃんと付き添ってあげていたり。少年もけして馬鹿ではないし幼いなりに事態を呑み込んではいるけれどグロリアに反抗的になったりしつつも彼女をよすがとし始める。
また、グロリアはいわゆる情婦として生きてきた中年女で裏の世界にも通じ、犯罪歴も持つ。ゆえにおいそれと警察などに頼れないのだという。

とにかくグロリアの豪胆さ(ないしはそのように奮い立つ様)は格好いい。自身の人生がそもそも波乱万丈で安定からかけ離れていたものながらもなんとかそこに近づけて日々を送っていただろうに、押し付けられた子供と手帳という爆弾を抱えてその何とか積み上げてきたものを全て駄目にしてでも即座に行動するのがすごい。最初にアパートを脱出するときに、自分にはお金もあるし友達もいるし家もあるし、猫を飼う余裕もある、だから大丈夫なんだ、貯金もしてきた、だから人生はここからなんだと自分に言い聞かせるように言いながら荷物を急いで詰めて逃げる準備をするところが鑑賞後はなおさら胸にくるものがある。彼女は強い女だけれど、その強さの足元や背後には怯えるばかりの闇があるんだなと。それを分かっていてそれでも戦うから、マフィア連中も認めるイイ女なのだと思う。弱気は口に出さず、気丈に振る舞い続けて、でも押し隠しているものをみっともなく曝け出さない。
少年への愛情も単に切り捨てていたはずの母性が目覚めたという言い方では彼女に失礼な気もする。ただ母親の強さという「母」に押し込めてしまうものでもないというか。本作、結局そういうふうに描いてるところがあるけれど。
逃走劇のさなかにそれなりのホテルに行こうとしたら、母子ということで無条件で下に見られた対応をされるくだりがあったりして、シングルマザーのつらさだとか、グロリアの生い立ちも女というものが使い捨てられていたり、少年の母親にしても冒頭で母として使い捨てられていたり、本作、女というものと社会みたいなところにちょっと切り込んでいるところはあって、孤独に戦い続けるしかないグロリアがそうした社会で主人公となって破滅の中で抗い続けるのが繰り返すようにかっこいいというか。社会と女を描いた作品なんだなと思いながら見ていた。彼女が話すよりも比較的すぐに発泡するのだって、女という立場ゆえだろうし。
そしてまた少年も無力な孤独な存在として存在している。スペイン系の貧しい生い立ちで親きょうだいは殺され、自分もまたマフィアに狙われている。彼を見ていると父親や社会は無責任なものだよなとしみじみ思う存在である。

ただそれ以外はひたすらなんでそうなるのみたいな話ではあるので、もっと展開に信憑性を持たせてほしかった気もする。なんとなくそういうものとして処理しながら観るしかない。
二人はこれからも逃走を続けて、社会からもはみ出し続けるのよな。少年は一度はグロリアの死さえも受け入れて葬式ごっこを営んでいたけれど彼女が現れてハッピーエンドみたいになってはいたけれど、この世界において孤独なのは変わらない。ひいてはそういうものがこの世界であるということでもあるわよねとも思うけれど、なんだか個人主義的すぎる孤独な社会を浮き彫りにしているようで遣る瀬無い気持ちになった。戦い続けなければならないのだみたいな。
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