シズヲ

弾丸を噛めのシズヲのレビュー・感想・評価

弾丸を噛め(1975年製作の映画)
2.9
元祖『スティール・ボール・ラン』!!20世紀初頭の大西部にて、700マイルもの荒野を横断する乗馬レースが開催される!!アレックス・ノースの雄大な音楽も相俟って70年代西部劇らしからぬ明朗な雰囲気があるのが印象的。しかし西部横断レースという題材は“西部開拓史(=西部への旅)”のパロディ的な要素を含んでいるし、1906年という時代設定もあってフロンティアが半ばノスタルジーの対象となりつつある過渡期の空気を感じられる。西部開拓時代に乗り遅れたような“カウボーイ気取りの若者”の存在が印象的。そういう意味では西部劇が峠を過ぎて以降の映画らしい側面を持っている。

大西部横断レースという題材のワクワク感は凄まじいが、いざ競技が幕を開けると全然面白くないので面食らう。「レースの情勢が極めて曖昧」「レースの躍動感が皆無」という二点がとにかく内容を鈍重にしている。そもそもレースの始まりからしてぼんやりとしている上に肝心の乗馬シーンは大して疾走感もない。スローモーション演出も小手先の技術っぽくて冴えないし、ジョン・フォードが駅馬車とインディアンを爆走させている時の方がよっぽどレース感がある。

そのうえで誰が勝っているのか、誰が遅れているのかみたいな順位争いの描写もあやふや。スティール・ボール・ランと違って少人数のレースなので画的なインパクトも無い。そもそも馬に乗って長距離を走らせればそれはレースではなく単なる長旅になるという、ある意味抗いようの無い事実を突きつけられるので切ない。レースの話なのにとにかくレースが盛り上がらないし、それ故に緩急もちゃんと機能していないのは痛い。終盤の囚人暴走等もメリハリというより、ただでさえ曖昧なレースに更なる水を指している感じ。

基本的には普通につまらないけど、登場人物たちのドラマ自体は中々の味があって良い。過去を背負い続けていた主人公や美徳を否定するニヒルな旧友、栄光を望み続ける元南軍兵士の老人など、参加者はどこか苦々しい内面やシニカルな一面を抱え込んでいるのが印象深い。競合相手である筈の彼らが旅路の中で奇妙な連帯感を育んでいくのが面白いし、『弾丸を噛め』というタイトルも苦境を堪えて前へと進んでいく彼らの象徴めいている。ジーン・ハックマン、ジェームズ・コバーン、ベン・ジョンソンなどの渋い名優を揃えているのも好き。また荒野や砂漠など、広大なロケーションでの撮影に拘っていることも伝わってくる。
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